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1. 緒  言
ダイヤモンドの結晶は、天然の固体物質の中で最も硬い
が、劈開性があるため方向によっては靭性が低く、衝撃に
弱い。現在市販されているダイヤモンド焼結体は、劈開性
や機械特性の異方性がないものの、ダイヤモンド粒子の粒
界に含まれるCo などの焼結助剤は硬度や耐摩耗性、耐熱
性に少なからず影響を及ぼす。焼結助剤や介在物を含まな
いダイヤモンド単相の焼結体(多結晶体)は、硬さ、強靱
さ、熱的安定性が調和した理想の硬質材料といえる。天然
には、微結晶の集合体であるカーボナード(carbonado)
や、針状結晶の放射状集合体であるバラス(ballas)ある
いはボーツ(bort)と称されるち密な多結晶ダイヤモンド
がある。これらの一部は高い硬度と強度を有し、工業的に
も利用されているが、大部分は不均質で不純物が多く、固
体間の品質のバラツキが大きい。そのため、合成による均
質で安定した品質のダイヤモンド単相多結晶体が強く望ま
れている。
このようなダイヤモンド多結晶体の合成方法として、超
高圧高温下でのダイヤモンド粉末の固相焼結や、グラファ
イトなどの非ダイヤモンド炭素からの変換焼結、低圧下で
の気相合成(CVD 法)が知られている。しかし、空隙や未
反応グラファイトの残留、不完全な焼結などの問題により、
十分焼結したバルク状の多結晶体はこれまでに得られてい
ない。
Synthesis of High-purity Nano-Polycrystalline Diamond and Its Characterization─by Hitoshi Sumiya and Tetsuo
Irifune ─ High-purity nano-polycrystalline diamond has been successfully synthesized by direct conversion from
high-purity graphite under static pressures above 15 GPa and temperatures above 2300°C. The polycrystalline
diamond has a very fine mixed texture of a homogeneous fine structure (particle size: 10-20 nm) and a lamellar
structure. The results of electron diffraction analysis suggested that diamond particles in the homogeneous fine
structure are transformed from graphite in a diffusion process while diamond layers in the lamellar structure are formed
from graphite in a two-step martensitic process via the hexagonal diamond phase. The polycrystalline diamond is so
hard that it is difficult to form indentations with regular polygon based diamond indenter. Measurable indentations can
be formed using only Knoop indenter in a limited loading condition of around 4.9 N. The results of Knoop hardness at
the load indicate that the nano-polycrystalline diamond has extremely high hardness, which is equivalent to or even
higher than synthetic high purity (type Ⅱ a) diamond crystal and obviously higher than type Ⅰ diamond crystals. It is
presumed that the microstructure features (very fine mixed structure, no secondary phases) lead to extremely high
hardness. The very fine microstructure and extremely high hardness of the polycrystalline diamond promise well for its
applications as high-precision and high-efficiency cutting tool for the next generation.
高純度ナノダイヤモンド多結晶体の合成と
その特徴
角 谷   均・入 舩 徹 男
2 0 0 4 年9 月・SEI テクニカルレビュー・第16 5 号-( 69 )-
ている。しかし、このような超高圧の安定発生は非常に困
難である上、試料の加熱は直接通電(3)~(6)やレーザー照射
(7)、(8)による瞬間的な加熱により行われてきた。これらの
方法では、未変換グラファイトや未焼結部の残留が避けら
れず、これまでダイヤモンド単相の均質で十分焼結したバ
ルク状の多結晶体は得られていなかった。愛媛大学地球深
部ダイナミクス研究センターでは、6-8 型(Kawai-type)多
段マルチアンビル超高圧装置と独自のサンプリング技術を
駆使して、15-25GPa、2000-3000 ℃の安定発生と長時間保
持を可能にしている。今回われわれはこの超高圧技術を用
いて、直接変換による高純度ダイヤモンド多結晶体の合成
に成功した。次にその概要を述べる。
出発物質に、等方性高純度グラファイト成形体
(99.9995 %、粒径は数ミクロン、Nilaco Co. Ltd.)を用い、
愛媛大学地球深部研の2000ton プレス駆動Kawai-type マル
チアンビル装置で超高圧を発生させ、Re またはLaCrO3 の
高温耐熱ヒーターを用いて試料を間接加熱した。
種々の合成条件(圧力12-25GPa、温度2000-2500 ℃、保
持時間10s ~ 10000s)で、ダイヤモンドへの直接変換実験
を行った。結果の概略を図1 に示す。この図の破線付近で、
立方晶のダイヤモンド(cubic diamond、以下c-dia と記す)
と、六方晶ダイヤモンド(hexagonal diamond、以下h-dia
と記す)に変換し出す。そして図の実線より高圧高温側
(およそ15GPa 以上、2300 ℃以上)で、ほぼ完全にダイヤ
モンドに直接変換し、強固に焼結した高純度なダイヤモン
ド多結晶体が得られる。図2 に、得られたダイヤモンド多
結晶体のX 線回折図形を示す。立方晶ダイヤモンドの回折
線のみで、グラファイトや六方晶ダイヤモンドの回折線は
認められない。試料の外観は図3 のように透光性を有し、
異相や不純物は非常に少ないことを示している。
比較のため、図1 には高純度六方晶窒化ホウ素(hBN)
を出発物質にしたときの立方晶窒化ホウ素(cBN)への直接
変換の実験結果(9)も合わせて示した。強固に焼結した緻密
で高純度なダイヤモンド、cBN の多結晶体が得られる最低
温度は何れも2300 ℃程度であるが、圧力としてはダイヤモ
ンドの方が1.5 倍ほど高い。hBN からcBN に直接変換する圧
力温度は、出発物質の結晶性や純度に大きく依存すること
が知られている。ダイヤモンドも、高純度で低結晶性ある
いは微細なグラファイトを出発物質とすると、より低温、
低圧で直接変換できる可能性があり、現在確認中である。
3. 微細構造と変換メカニズム(10)
次に、得られた高純度ダイヤモンド多結晶体の微細組織
を、TEM 観察と電子線回折により調査した結果を述べる。
試料の表面を、ダイヤモンド電着砥石で研磨し、その研磨
面より、FIB(Focused ion beam)により10 × 10 × 0.1μm の
20 40 60 80 100 120 140
2θ Cukα
INTENSITY
B (111)
2.066
(220)
1.269(311)
1.0776 (400)
0.8918
(331)
0.8189
図2 グラファイトからの直接変換により得られた
高純度ダイヤモンド多結体(15GPa、2400 ℃)のX 線回折図(2)
0
5
10
15
20
25
圧 力(GPa)
1000 2000
温 度(℃)
ダイヤモンド、cBN 安定領域
グラファイト、hBN 安定領域
立方晶ダイヤモンド
立方晶ダイヤモンド
+六方晶ダイヤモンド
+グラファイト(圧縮型)
cBN
+hBN(圧縮型) cBN
グラファイト- ダイヤモンド平衡線
hBN - cBN平衡線
図1 高圧高温下でのグラファイト→ダイヤモンド変換実験結果
1mm
図3 グラファイトからの直接変換により得られた
高純度ダイヤモンド多結晶体の光学顕微鏡像(1)
-( 70 )- 高純度ナノダイヤモンド多結晶体の合成とその特徴
薄板を切り出し、高分解能TEM(Hitachi、H-9000)により
微細構造観察および電子線回折を行った。図4 に代表的な試
料のTEM 写真と視野400nm の電子線回折像を示す。微細で
均質な組織部(A)と、層状構造の断面と思われるラメラ組
織部(B)とが混在しているのがわかる。15GPa 以上、2300-
2500 ℃で作製したダイヤモンド多結晶体の組織はいずれも
これと同じであった。均質部のダイヤモンド粒子は多面体の
自形を持ち、粒径10 ~ 30nm 程度である。この部分の電子線
回折図形は立方晶ダイヤモンド(c-dia)の回折のみで他の相
の回折は見られない。また、このc-dia による電子線回折線
は、リング状パターンを示すことから、各粒子の結晶方位は
全くランダムであることがわかる。この均質部のダイヤモン
ド粒子は、形状、大きさ、方位とも出発物質のグラファイト
(数μ m 鱗片状)に依存していないことから、グラファイト
の原子結合の切断→原子の拡散→格子の組み替え、という拡
散型相転移により生成したと考えられる。
一方、ラメラ組織部の各層状ダイヤモンドの大きさは、
厚さ10 ~ 20nm 長さ100-200nm で、ダイヤモンドとしての
自形を持っていない。また、巨視的には非直線的で、湾曲
あるいは折れ曲がっていることから、一つの結晶内のすべ
り変形によるいわゆるmicro-twin 構造とは異なる。電子線
回折を見ると、対称性のあるc-dia の回折斑点が見られ(図
4(c))、その斑点方位から層状ダイヤモンドはc-dia の
〈111〉方向に積層していることがわかる。また、少し低温
側で合成した試料には、このラメラ組織部に微弱な六方晶
ダイヤモンド(h-dia)の(100)回折斑点が検出される場合
がある。図5 にその電子線回折の拡大図を示す。h-dia
(100)回折斑点はc-dia(111)回折斑点近くにあって、両者
は同径軸方向に並んでいる。これは、c-dia の(111)面とhdia
の(100)面は共軸関係にあることを示している。また、
2000 ℃以下の低い合成温度で得られる多結晶体にはh-dia
が多く見られる(2)が、このh-dia はグラファイトからマル
テンサイト(無拡散)型相転移により生成したものである。
このマルテンサイト型相転移によるグラファイト→ h-dia 変
換は高圧低温条件(>10GPa, <2000 ℃)で起こることがよ
く知られており、両者はg(001)//h-dia(100)の共軸関係が
ある(11)。以上のことから、このラメラ組織のダイヤモン
ドは、出発物質の層状グラファイトがまず層状のh-dia にマ
ルテンサイト型相転移(2H graphite → 1H graphite → h-dia)
し、次に層状のc-dia にマルテンサイト転移したものと思わ
れる。それぞれの相の共軸関係はg(001)//h-dia(100)//cdia(
111)となる。ラメラ構造部のダイヤモンドが出発物質
のグラファイトに対応した形状を有し自形を持たないこと
は、マルテンサイト型相転移により生成したことを裏付け
ている。
グラファイト→ダイヤモンド変換が、拡散型相転移(均
質部)、マルテンサイト型相転移(ラメラ部)の何れのパ
スを経るかは、加圧時のグラファイト粒子の変形状態や圧
縮応力のかかる方位によって決定されると考えられる。今
回、出発物質に用いた等方性グラファイト成形体は、粒径
数μm の粒子がランダムな方位を向いており、加圧時には
a b c
200nm 50nm 50nm
B
A
図4 高純度ダイヤモンド多結晶体(18GPa、2500 ℃、10sec)のTEM 写真
(a)x50000、(b)x200000(A 部拡大)、(c)x200000(B 部拡大)
(220)c-dia
(111)c-dia
(100)hex-dia
(311)
c-dia
111 c-dia
100 hex-dia
図5 ダイヤモンド多結晶体のラメラ構造部の電子線回折像
2 0 0 4 年9 月・SEI テクニカルレビュー・第16 5 号-( 71 )-
図6 に示すようにそれぞれのグラファイト粒子は異なる変
形をし、その変形状態によって変換パスが決定されると考
えられる。マルテンサイト型転移は、高結晶性のグラファ
イトを出発物質とすると起こりやすいこと(12)から、でき
るだけ低結晶もしくは微細なグラファイトを出発物質とし
て用いれば、拡散型相転移のみの変換となるため、より微
細で均質な組織のダイヤモンド多結晶体が得られると考え
られる。
なお、2300-2500 ℃の範囲では、均質部の粒径やラメラ
組織の大きさはほとんど変化が無く、合成時間を10 秒から
10000 秒と大きく変えても粒子の大きさは変わらなかった
(表1)。すなわち、初期に数十nm のダイヤモンドが形成
された後は、長時間保持してもほとんど粒成長しない。一
方、2600 ℃を超える高温で合成した試料(合成温度~
2 7 0 0 ℃)の均質部の粒径は、図7 に示すように3 0 ~
100nm と、他の試料に比べ大きくなっている。局所的に図
7 の矢印で示すような異常粒成長が見られる。ラメラ構造
部を観察すると(図8)、層状ダイヤモンドは少し厚く(~
50nm)なり、かつ途中で分断されて、それぞれが独立した
結晶として成長していく様子が見られる。層状ダイヤモン
ドの中には、層方向に大きな歪みや、層の垂直方向に積層
欠陥あるいは小角粒界などの欠陥が多く見られるが、
2600 ℃を超える高温下ではこれらの欠陥や粒界が拡散・移
動して、方位を保ったまま独立したダイヤモンド粒子に分
離、成長していくと考えられる。
4. 機械的特性(13)
ここで得られた高純度ダイヤモンド多結晶体は、前項で
述べたように極めて微細な粒子が緻密に結合した組織を持
つため、優れた機械的特性が期待できる。押し込み硬度は
機械的特性の基本であり、小さい試料でも試料の変形抵抗
(硬度)や弾性特性の評価ができる。次に、その押し込み
硬度を調査した結果を述べる。
ダイヤモンド多結晶体試料を高速ダイヤモンド砥石で研
磨し、その研磨面上の押し込み硬度を微小硬度計
(AKASHI、MVK-E)で、種々の圧子(天然ダイヤモンド
単結晶製)を用いて評価した。十分に焼結した高純度ダイ
ヤモンド多結晶体試料は非常に硬く、ビッカース圧子(正
四角錐)やバーコビッチ圧子(正三角錐)では、一回の圧
入で圧子が破損した。これは、この高純度ダイヤモンド多
結晶体は圧子の天然ダイヤモンド結晶より硬いことを示し
ている。一方、ヌープ圧子(菱形四角錘)を用いると、7N
より小さい荷重条件に限られるものの、圧子の破損なしに
a b
200nm 50nm
図7 高温合成した高純度ダイヤモンド多結晶体
(18GPa、2600-2700 ℃、600sec)の均質部のTEM
表1 各種高純度ダイヤモンド多結晶体の均質部のダイヤモンド粒子の粒径
No. 圧力(GPa) 温度(℃) 時間(秒) ダイヤモンド粒径(nm)
1 18 2500 15 10-20
2 15 2400 78 10-30
3 18 2300 10 10-30
4 18 2300 1000 10-30
5 18 2300 10000 10-30
6 18 2600-2700* 600 30-200
※投入電力より温度推定
a b
200nm
200nm 50nm
図8 高温合成した高純度ダイヤモンド多結晶体
(18GPa、2600-2700 ℃、600sec)のラメラ構造部のTEM
グラファイト グラファイト
グラファイト グラファイト
グラファイト
(出発物質)
拡散型相転移
マルテンサイト
型相転移
ダイヤモンド
ダイヤモンド
最大圧縮応力方向
ラメラ構造組織
均質微細組織
図6 グラファイト→ダイヤモンド直接変換の概念図
-( 72 )- 高純度ナノダイヤモンド多結晶体の合成とその特徴
正常な圧痕が形成できることがわかった。ヌープ圧子での
み正常な圧痕が形成できる理由は、ヌープ圧子先端の形状
の効果によると思われるが、その詳細は不明である。7N 以
下でヌープ圧痕が形成できるが、その圧痕のサイズから算
出した硬度の値に、大きな荷重依存性が見られた。図9 に、
15GPa、2400 ℃、78sec で得られたダイヤモンド多結晶体
の各荷重におけるヌープ硬度の測定値を示す。荷重が小さ
くなるとともに、特に2N 以下で急激に硬度測定値が高く
なり、測定値のバラツキも大きくなっている。ダイヤモン
ド単結晶や硬質セラミッスの押し込み硬さにおいても、こ
のような荷重依存効果(indentation size effect, 以下ISE と
記す)があることが知られている(14)、(15)。この荷重依存
効果は、次の関係式で表される:
P = Adn
ここで、P は荷重、d は圧痕の大きさ、A は定数で、n の
値は通常2 であるが、ISE がある場合はn < 2 の値を示す。
ダイヤモンド単結晶の(001)〈110〉のヌープ硬度の場合、n
の値は約1.5(14)と、大きなISE がある。今回のダイヤモン
ド多結晶体のn はおよそ1.4 と、ダイヤモンド単結晶と同程
度以上の大きなISE を示す。硬質材料においてこのような
荷重依存性が生じる理由は、加工硬化や微小滑り効果、不
連続塑性変形の弾性回復などが考えられている(14)、(15)。
今回の高純度ナノダイヤモンド多結晶体の場合、低荷重下
では弾性回復の程度が増加して、見かけ上、硬度の測定値
が向上したものと考えられる。図10 は高純度ナノダイヤ
モンド多結晶体のナノインデンテーション法で測定した軽
荷重(300mN)での荷重―変位カーブである。荷重除去時
に、相当量の弾性回復があることがわかる。一方、荷重
6.86N では、圧子の先端が一回の圧入で破損することが多
い。この荷重で硬度値が高めにバラついているのは、圧入
時の圧子先端の破損によるものと思われる。荷重4.9N では
圧子の損傷が少ないためこのようなバラツキも小さい。以
上の実験結果より、荷重4.9N 前後で最も正確な押し込み硬
さが評価できると考えられる。
図11 は、荷重4.9N で上記ダイヤモンド多結晶体試料に
形成した圧痕のAFM 像を示す。圧痕の回りは滑らかでク
ラックがなく、塑性流動による変形にて圧痕が形成された
ことを示している。図12 に、比較材として用いた合成IIa
型ダイヤモンド単結晶の(001)〈100〉に同荷重で形成した
ヌープ圧痕のAFM 像を示す。劈開による大きなクラック
は認められず、大部分は塑性変形によるものといえる。こ
れらの圧痕の大きさを比較すると、ダイヤモンド多結晶体
の圧痕(22.6μm)の方が、ダイヤモンド単結晶の圧痕
(23.6μm)よりやや小さく、高純度ダイヤモンド多結晶体
0
0 1
100
200
300
400
500
600
ヌープ硬度(GPa)
2 3 4 5 6 7 8
荷 重(N)
各測定値
平均値
図9 高純度ダイヤモンド多結晶体(15GPa、2400 ℃、78sec)
のヌープ硬度測定値の荷重依存性
0
50
100
150
200
250
300
0 100 200 300 400 500
Load(mN)
Penetration Depth(nm)
図10 高純度ダイヤモンド多結晶体(15GPa、2400 ℃、78sec)
の荷重ー変位曲線
40μm
5μm
5μm
1μm
全体像
端部
中央部
端部拡大
図11 高純度ダイヤモンド多結晶体(15GPa、2400 ℃、78sec)
のヌープ圧痕のAFM 像(荷重4.9N)
2 0 0 4 年9 月・SEI テクニカルレビュー・第16 5 号-( 73 )-
の塑性変形抵抗(硬度)は、ダイヤモンド単結晶より高い
ことを示している。
次に、種々の条件で合成したダイヤモンド多結晶体試料
のヌープ硬度を、荷重4.9N で測定した。その結果を、比較
試料の結果と併せて表2 に示す。圧力15GPa 以上、温度
2300 ℃以上の条件で合成したダイヤモンド多結晶体は、何
れも100GPa 以上の硬さを示し、中には120-145GPa と非常
に高い値を示すものがある。この値は、合成IIa 型の(001)
〈100〉硬さ(116-130GPa)と同程度で、合成Ib 型ダイヤモ
ンド試料(窒素不純物88 ppm)の(001)〈100〉ヌープ硬さ
(98-106GPa)より高い。ここで、合成Ⅰb が合成Ⅱa より
20 %程柔らかいのは、塑性変形の起点となる孤立置換型窒
素不純物を含むためである(16)。なお、合成条件(圧力、
温度、時間)と硬さとの明確な関係は今回見出せなかった。
ダイヤモンド単結晶のヌープ硬度は面方位による異方性が
あることが知られており、合成のⅠb 型ダイヤモンド結晶
や、天然のⅠa 型結晶では測定する面方位によって図13 の
ように大きく変化する。この各方位の硬度と比較すると、
高純度ナノダイヤモンド多結晶体は、高純度合成Ⅱa 型ダ
イヤモンド結晶と同程度以上に硬く、従来のⅠ型ダイヤモ
ンド結晶より明らかに硬いと言える。また、従来のバイン
ダーを含むダイヤモンド焼結体に比べると2 倍近く硬い
(図14)。
一般に、単結晶材料を変形させた場合、面すべりによる
塑性変形で転位が伝搬したり、劈開割れによりクラックが
進展したりする。しかし多結晶体材料では、この粒内での
転位やクラックの進展は、原子配列が不連続である粒子界
面(粒界)で阻止される。粒子間結合が十分である場合、
粒界が多い微細結晶粒体ほどこの効果が顕著となり、硬度
や強度、靭性が向上する場合がある。このような結晶粒微
細化による強化は金属材料ではHall-Petch の関係としてよ
く知られている。今回の高純度ダイヤモンド多結晶体は、
試料番号
最小
合成条件
(GPa, ℃, sec)
ヌープ硬度(GPa)
高純度
ダイヤモンド
多結晶体
No.1 18, 2500, 15 97 105
最大
No.2 12, 2000, 120 65 95
No.3 15, 2400, 78 128 138
No.4 18, 2300, 10 127 141
No.5 18, 2300, 100 122 145
No.6 18, 2300, 1000 110 131
ダイヤモンド
単結晶
合成Ⅱ a
(001)〈100〉
- 116 130
合成Ⅰ b
(001)〈100〉
- 98 106
高純度cBN 多結晶体(< 0.5μ m) - 50 55
cBN 単結晶(100)〈100〉- 41 43
50
100
150
[100] [110] [001] [110] [110] [112]
(001) (110) (111)
ヌープ硬度(GPa)
面方位
合成Ⅱa
合成Ⅱa
合成Ⅱa
合成Ⅰb
合成Ⅰb
合成Ⅰb
天然Ⅰa
天然Ⅰa
天然Ⅰa
高純度
ダイヤモンド
多結晶体
図13 各種ダイヤモンド単結晶の各面方位のヌープ硬度(荷重4.9N)
高純度ダイヤ多結晶体
(~20nm)
ダイヤ単結晶
高純度合成Ⅱa
(001)〈100〉
ダイヤ焼結体
(Coバインダ)
高純度cBN多結晶体
(0.5μm)
cBN単結晶
(001)〈100〉
cBN焼結体
(セラミックバインダ)
0 50 100 150
ヌープ硬度 Hk(GPa)
図14 ダイヤモンド、cBN の多結晶および単結晶のヌープ硬度(荷重4.9N)
30μm (001)〈100〉
図12 合成Ⅱ a 型ダイヤモンド単結晶体の(001)< 100 >の
ヌープ圧痕のAFM 像(荷重4.9N)
表2 各種高純度ダイヤモンド多結晶のヌープ硬度測定結果(荷重4.9N)
-( 74 )- 高純度ナノダイヤモンド多結晶体の合成とその特徴
直接変換と同時に粒子同士を結合させる焼結プロセスによ
るため、粒界に介在物や不純物を含まず、粒子間結合は十
分強固である。そして前項で述べたように、非常に微細な
粒状あるいは板状のダイヤモンドが緻密に組織を形成して
おり、粒界面積が極めて大きい。このため、上記の微細化
強化効果が有効に作用して、単結晶と同程度以上の非常に
高い硬度を示したと考えられる。同様の効果がcBN でも見
られ、hBN からの直接変換により得られた高純度cBN 多結
晶体(粒径0.5μm 以下)(9)の硬度(50-55GPa)は、cBN
単結晶の硬度(41-43GPa)を大きく越えている。
5. 結  言
高純度グラファイトを出発物質として、超高圧高温(>
15GPa、> 2300 ℃)下で、ダイヤモンドに直接変換焼結し
て、ダイヤモンド単相の高純度多結晶体を得ることに成功
した。この高純度ダイヤモンド多結晶体は、粒径数十nm
以下のナノ微粒子からなる均質組織と、幅数十nm 長さ数
百nm の層状構造とが混在した非常に緻密な組織を有する
ことがわかった。このダイヤモンド多結晶体は非常に硬く、
そのヌープ硬度(荷重4.9N)は高純度合成Ⅱa 型ダイヤモ
ンド単結晶と同程度以上で、Ⅰ型のダイヤモンド結晶と比
べると明らかに高い。非常に微細な粒子が強固に結合して
いるため、塑性変形、転位の進展が粒界で阻止される効果
により、非常に高硬度となったものと考えられる。
極めて微細な組織構造、非常に高い硬度特性を有するこ
の高純度ダイヤモンド多結晶体は、究極の硬質材料と言う
ことができ、次世代の高性能切削工具材料として大いに期
待できる。現状では得られる試料サイズは1-2mm 程度と小
さく、強度特性や耐摩耗特性など実用上重要な特性の評価
が困難で、生産性に乏しい。アンビル先端の大径化と大型
プレス装置の適用により5-6mm 径程度の大型試料の多数枚
同時焼結ができると考えている。今後、この大型化による
実用性能の確認と、生産技術の開発を進める予定である。
参 考 文 献
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(16)H.Sumiya, N.Toda, S.Satoh, Diamond and Related
Materials, 6, 1841-1846(1997)
執 筆 者------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
角谷  均:エレクトロニクス・材料研究所ナノマテリアル研究部 主席(工学博士)
入舩 徹男:愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター 教授(理学博士)
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