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最近の素形材情勢の中で私が特に興味のある物の一つに、チタン、マグネシウム合金があります。
これらの合金になぜ興味を示すか。
それはこれらが、簡単に言えば軽くて強い、からです。
これらの合金が軽くて強いにもかかわらず、今まで広く市場に出なかった理由に、その加工性やコストが挙げられます。
つまり、高価で、加工しづらいと言うのが難点。
しかし、最近の刃物や機械性能の向上、製作工程の変化等から、以前より安価に入手でき、比較的簡単に加工できるようになってきた為、市場で見直されるようになってきています。
私自身の会社ではこのような素材を利用することはありませんが、個人的に興味の深い自動車の分野で利用が高まっていることや、それに伴い、これらの合金加工用の工具が要求されるようになってきていることが、興味の根元です。
では、それぞれの特徴を解説してみましょう。
チタン合金 マグネシウム合金の一般的な特徴
チタン合金
マグネシウム合金
物理的性質 比重が小さく、強度が強い(軽くて強い=比強度=強度/密度が高い)。
熱伝導率が小さく、熱膨張が小さい。
耐熱性が高い。 比重はチタン合金よりさらに小さく、比強度(強度/密度)も高い
熱伝導率は高い(放熱性が良い)。
耐熱性は低い。
化学的性質 耐食性に優れる。
活性が強い。 水と反応し、水素を発生。
加工性 化学的に活性な為、構成刃先が付き易く、刃物寿命が短い。
切削速度を落し、高送りで加工する事。 切削抵抗が小さい。
但し、加工硬化が著しい為、鋭利な刃物を使い、高送りで加工すること。
切り粉や粉塵は、水と反応し水素を発生、爆発的に燃焼することがある。
その他 Ti-6Al-4Vが有名(俗称ロクヨン)。
軽くて丈夫な為、一部のエンジンのコンロッドやリテーナ等に用いられる。
耐腐食性や耐熱性が高い為、熱交換器部品などにも用いられる。
スティール類との膨張率が大きく違う為、熱を持つ嵌合部分には注意が必要。
熱のかかる部分で動く部分には最適。 資源は豊富で、リサイクル可能。
放熱性が良い事から、パソコン部品に多用されている。
対くぼみ性が高く、減衰能が高い為、自動車のホイール等に使われる事もあります。
最近では、ミッションケース等にも採用。
高熱の発生しない部分。
各種合金の機械的性質比較
比重 引張強度
(N/mm^2) 比強度 伸び(%) 熱伝導度(W/m・℃) 熱膨張係数
(/℃)
チタン合金
Ti-6Al-4V 4.43 981 221 10 7.1 8.8*10^-6
マグネシウム合金
MT1(圧延) 1.78 290 163 20 (71.1) 27.4*10^-6
アルミダイキャスト
ADC10 2.74 295 108 2 96 23.5*10^-6
ステンレス
SUS304 8.0 490~539 61~67 40 13 16.5*10^-6
超耐熱合金
INCONEL718 (8.3) 1274 153 12 (14.6) (13.7*10^-6)
超耐熱合金
WASPALOY 8.2 1098 133 15 12.5 12.2*10^-6
参考
軟鋼 7.8 300 38 30 (50) 11*10^-6
※本資料は、いくつ物資料より抜粋しまとめた物であり、詳細なデータに付いては保証しかねるので、メーカーへ確認されたし。
これらのデータから何が解るか
先ず、比強度:比強度とは比重に対する引張り強度の割合=平たく言えば、単位密度当たりどれだけの強度があるかであるから、比強度の値が高ければ同じ質量でより高い強度が得られると言う事。
つまり、同じ強度の物を作ろうとすると、軽く出来るという事です。
ただ、軽くて同じ強さの物を得られても体積が増えれば元の黙阿弥。
軽くて丈夫なものが作れて、かつ体積の増さないものが求められます。
例)
Aと言う材質の引っ張り強度=100
Bと言う材質の引っ張り強度=80、とするとAが強いです。
これは同じ体積(同じ断面積)では、Aが強いと言うこと。
ここで、
Aの密度(比重)=2
Bの密度(比重)=1、とすると
密度あたりの比強度はA=50、B=80 同じ重さではBが強いと言うこと。
軽くて強いものを作ろうとすると、比強度の高いものを選ぶべきです。
ここで、Bと同じ強度のものをAで作ると、1.6倍の質量を要します。
しかしながら、Aは小さな体積(80%の)で作れます。
絶対的な強度がほしいのか、重量あたりの強度がほしいのか、あるいは軽くて小さくて強いものが欲しいのか、全てを見比べながら検討する必要があります。
熱膨張係数の項を見ると、材質によってかなり数値が違います。
これは、材料温度が1℃上昇する事によって、単位長さ当たりどれだけ膨張するかを表した係数で、値が高いほど膨張し易いという事です。
チタン合金などは高温になっても膨張し難い為、温度変化による寸法維持もし易いと言えます。
但し、他の部品の膨張係数との兼ね合いがありますから、異種金属との嵌合には特に注意が必要です。
チタン合金や超耐熱合金(インコネル、ワスパロイ)などは高温になっても強度が低下せず(高温強度が高い)高温で使用される部位に用いられます。
インコネル、ワスパロイはジェットエンジン部品に、チタン合金は熱交換器部品に良く用いられ、併せて、耐食性が高い事から化学薬品の保管や製造に用いられる事もあります。
レース用部品で、チタンコンロッド等も珍しくなくなりました。
熱伝導度とは熱を伝え易いかどうかを表す係数で、値が小さいほど熱を伝え難くなります。
熱を伝え難いとどうなるか?
ぶっちゃけた話、スティールのコップと陶器の湯飲みの違いの様に、陶器の湯飲みは熱を伝え難い為、中のお湯の温度を外部へ熱交換し難い=詰まり保温性が良いと言う事。
熱機関に用いれば、外部に熱を伝えないから熱効率が良く、外部の環境にも影響を与え難いと言えます。
自動車のアルミホイール等は、ブレーキ周りに生じた熱を迅速に外気へ放熱する必要がありますし、軽い事が条件ですから、マグネシウム合金は適していると言えるでしょう。
ただし、放熱性が良いからと言って耐熱性が良いとは言えません。事実マグネシウム合金は耐熱性が低く、高温でかつ応力の掛かるような部位には適していません。
自動車部品で応力が掛かり難く、かつ軽量化が要求され、熱を放熱する必要のある部位には発展が予想されます。
熱伝導度と切削性
熱伝導度が低いと、切削などで生じた熱を放熱し難くなります。したがって、刃先温度が上がり、刃物寿命の低下や加工硬化を起こし易くなります。
熱伝導の悪い被削材:ステンレス等が難削材と言われる所以はこの辺にあり、ステンレスより更に熱伝導の悪いチタン合金や、超耐熱合金などは超難削材である事が、表をご覧くだされば容易に解るでしょう。
逆に熱伝導が良いと言う事は、放熱性が良いという事ですから、切削の時に刃先に熱が溜まらず、良好な切削性が期待できます。
マグネシウム合金はその良い例です。
マグネシウム合金は乾式切削が良く用いられ、高熱になる事が予想されますが、案外その放熱性により、そんなに高い刃先温度になる事は無い様です。
このように極端な性質をもつこれら特殊な合金は、一面は良好な性質なのですが、裏を返せばその良好な性質がマイナスになる事も大きく、喜んでばかりは要られません。
材料の利点を見出し、その利点と難点を上手に融合させれば、今後製造方法の発展に伴い、利用がますます増えてくると思われます。
われわれ、刃物技術者の出番もますます多くなると言う事で喜ばしい事ではありませんか。