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天然に産する石英は、その形状・サイズ・色・透明度などが多岐にわたり、形状や産出形態で分類しただけでも 下の表のように沢山の種類がある。 成因については、3-4 や 図 3-10 で一部触れたが、海岸の砂や川砂も その大半が石英から出来ていて、一般的に「色白で透明度のある砂や石(岩)は石英である」と言っても過言ではない。
種類 | 純度(%) | 産出形態(鉱床) | 主な産地 | 主な用途 | 価格(円/kg) |
砂 (Sand) | 90~95 | 残留鉱床 沖積(漂砂)鉱床 | ⇒全国(山砂) ⇒ 〃 (川砂・海砂) | 建材・土木用 | 1~2 |
珪砂(国内) (Silica Sand) | 95~98 | 残留鉱床 沖積(漂砂)鉱床 | ⇒瀬戸(愛知県) ⇒温泉津(島根県) | 壜・板ガラス用 鋳型用 | 2~4 |
珪砂(海外) (Silica Sand) | 99.8 | 沖積(漂砂)鉱床 | フラッタリ(Australia) サラワク(Malaysia) | 高級ガラス ・珪酸ソーダ用 | 4~5 |
(石英)砂岩 (Sandstone) | (90)~99 | 堆積鉱床 | オクラホマ(U.S.A) ・ペンシルバニア(〃) | ガラス・鋳型用 | 2~4 |
珪岩 (Quartzite) | (90)~99 | (高圧)変成鉱床 | 中国・韓国・北米 ・スカンジナビアetc. | 金属シリコン ・合金鉄用 | 5~10 |
珪石・石英 (Quartz) | 99~99.9 | ペグマタイト鉱床 ・(高温)変成鉱床 | 南インド・スリランカ ・西オーストラリア | 樹脂用フィラー ・光学ガラス用 | 10~20 |
水晶 (Cryatal Quartz) | 99.9~99.99 | 熱水鉱床(岩漿性・動力性) | ブラジル・マダガスカル ・アーカンソー(U.S.A) | 人工水晶・透明石英ガラス・装飾用 | 100~800 |
表 5-2 α-石英の種類と産出形態及びその用途 |
主に、α-石英の単結晶の粒や多結晶の塊である、砂(珪砂)や珪石(珪岩)の種類や成因は複雑で、上表だけでは説明しきれないが、単結晶の塊である水晶は、材料こそ違っても 全てが熱水鉱床で形成されている。 しかし、ごく単純な組成と構造から成る水晶も その生成過程は複雑で、各種要因によって色や形状が異なる様々な水晶が誕生するのである。 本項では、水晶が生成するプロセスと、その結果生じた様々な水晶について詳しく解説する。
(1)高温・高圧の熱水から水晶が生成するプロセス 目次
人工水晶のメーカーが、水晶育成用のオートクレーブ(高圧装置)に材料の天然水晶を充填したものの、再結晶させるための種水晶を入れるのを忘れ、約40日後に蓋を開けてみたら、Cr-Mo-V高張力鋼の巨大な大砲のようなオートクレーブの内壁に、三角の針状結晶がびっしりと張りついていたというエピソードがある。 動力(地殻変動)性の熱水鉱床から水晶が晶出する場合、高温・高圧の熱水が周囲のSiO2成分を溶かし込んで水晶の材料にするため、その母岩は石英に富んだものでなければならないが、岩漿(マグマ)性の熱水鉱床では、水分が濃縮されたマグマの残漿(ざんしょう)中に、十分過ぎる程のSiO2を溶解しているため、特に母岩は選ばない。 高張力鋼であれ黄銅鉱や方鉛鉱のような鉱物であれ、不純物として微量のSiO2を含んでいるため水晶の種には事欠かず、豊富なSiO2を含む高圧熱水から水晶が急速に成長した場合、断面が三角形でc軸方向に伸びた針状結晶が発達するのである。 従って、実際に水晶が成長する過程は次の3段階に分けられる。
① 熱水鉱床の密閉過程
動力性の熱水鉱床で、地殻変動の終焉に伴って急激な圧力低下が起こり、高圧熱水の入った空洞の母岩上に、多結晶のα-石英が急速に析出して空洞が完全に密閉されるが、長さが数kmの偏平状のものから数十cmの楕円体状のものまで、大小様々なスケールが想定できる。 岩漿性の熱水鉱床ではマグマ溜まりが周辺から固化し、ペグマタイト晶出後は空洞が密閉されているため急激な圧力低下は起こらないが、地殻変動を伴って亀裂が生じた場合は、熱水が上部の花崗岩層に侵入する際、部分的に密閉過程が生じたと考えられる。
② 針状結晶の急速成長
密閉された熱水鉱床は、その後ゆっくりとした温度降下に伴い圧力も低下するが、高温・高圧の熱水に溶解した豊富なSiO2成分が、過飽和溶液から母岩上の種となるSiO2微粒子の先端に析出し、単結晶の水晶が急速に成長し始める。 熱水に溶解しているSiO2はSiO4らせん体の形で縦に長いため、成長は縦(c軸)方向に著しく、かつα-石英(三方晶系)として晶出するため、3方向(r面方向)に出っ張った三角断面の針状結晶が数多く成長した。
③ 大型結晶の緩慢成長
温度降下も次第に緩やかになって、SiO2成分も減少した希薄溶液からは成長方向に差が無くなり、まるでスローモーションの“テトリス”のように空隙を埋めながら、あらゆる方向にゆっくりと肉付けされる。 結晶の方向がまちまちだった針状結晶も次第に方向が統一され、大きな水晶が姿を現すが、この時点で様々な双晶が形成され易い。 そして、動力性の多結晶質の母岩に無数の針状結晶が生じた場合は、結晶方向が統一される位置まで、根元が不透明な白い固まりとして残るのである。 一方、岩漿性の異種鉱物が母岩となった場合は、種となるSiO2微粒子が極端に少ないため針状結晶の数も少なく、早い時期に結晶方向が統一され、根元まで透明な水晶が形成され易い。
図 5-6 成長初期と後期の水晶の形状 |
天然水晶の成長は、初めは速く 後に緩やかに各々の段階を経ながら、数年~数十年の長い時間をかけて、連続的に成長したと考えられる。 最初に晶出した針状結晶は、右の図のように、r面方向に優先して成長するため、R面が発達した三角柱になり易い。 そしてこの傾向は、大きな結晶に成長した後も残り、r面が小さく R面の大きい、アンバランスな形になり易いのである。
某水晶メーカーが、約450℃・1500気圧の高温・高圧下、純水とNaCl水溶液とNaOH水溶液で成長速度の比較をしたところ、純水では R面:r面:Z(c)軸≒1:2:100 であった。 しかし、6%のNaCl水溶液では 約1:1.5:20、4%のNaOH水溶液では 約1:1.2:5 と成長速度差が縮小し、R面だけの成長速度は純水:NaCl:NaOH≒1:50:2000(推測)と、4%NaOH水溶液での成長速度が圧倒的に大きい。 NaOH水溶液を利用した人工水晶の水熱合成では、結晶欠陥の発生を避けるため 育成温度を350℃程度に下げて、成長速度を約1/10(Z軸方向で1mm/day前後)に抑えている。
一方、R面方向に対するZ(c)軸方向の成長速度差が、純水>NaCl水溶液>NaOH水溶液の順に縮小する原因は、後者の方がSiO2成分を溶解し易いため、SiO4らせん体も分解されて短くなったと考えられる。 高圧熱水に溶解しているSiO4らせん体が長いほど、Z(c)軸方向の成長が速いのである。 天然水晶の母体となった高圧熱水は、現在の海水とほぼ同じ約3% あるいはそれ以下のNaCl水溶液だったと推定されることから、成長初期に晶出した三角柱の針状水晶は、いかに細長かったかが想像できる。
水晶(加藤氏提供) | 水晶(加藤氏提供) |
◇ 上の2枚は、成長中期の水晶の集まりですが、特に左の母岩(方鉛鉱)上には、まだ成長初期の針状結晶が沢山残っていて、断面が三角形に近い水晶も見られます。◇
(2)右水晶と左水晶は何が違うのか 目次
右水晶と左水晶について、「水晶の長手方向のZ軸と平行に空いた連続空隙が、偏光を右旋回させるものが右水晶で、左旋回させるものが左水晶である」ことは、前節の5-1(5)で述べた通りである。 つまり、Z軸(c軸)方向の細長いスリット状の空隙が、右ネジ回りに連続する水晶が右水晶で、左ネジ回りの水晶が左水晶。 更に突き詰めると、水晶を形作るSiO4らせん体の旋回方向が、左ネジ回りのものが右水晶で、右ネジ回りのものが左水晶である。
図 5-7 右水晶と左水晶 |
外観上、右水晶と左水晶の区別はほとんどつかないが、稀に結晶面のよく発達した水晶で、両者を区別できる小さな結晶面が現れる。 右の図のように、a1,a2,a3,cの4軸を、結晶軸の交点から各々1/5:1:-1/6:1の長さで切ったx面{5161}と、1:1:-1/2:1で切ったs面{1121}がその結晶面で、これらが柱面m{1010}の右肩に現れるものを右水晶(right-hand quartz)、左肩に現れるものを左水晶(left-hand quartz)と呼ばれている。 {}カッコ内の数字を面指数といい、マイナス記号も含め 正確には右図の下のように記述するが、“1”は図のRとr面のように、基準となる結晶面が各々の結晶軸を切る長さを意味し、“0”は結晶軸と交わらず平行なことを意味している。 そして、水晶は三方晶系に属すことから、c軸を中心に左右に120°回転させても結晶軸は同一と見なされ、x面とs面は3個の柱面mに現れるが、両端に錐面のある水晶では 3個の柱面m’の左下(右水晶)と右下(左水晶)にも現れ、両錐形水晶の上下をひっくり返すと元の柱面m’が柱面mと見なされる。 柱面mの肩にこれらの小面が現れるのは、SiO4らせん体が連結した水晶に特有な現象である。
水晶を破壊して右か左かを調べるには、c軸に垂直にスライスして偏光を当て、偏光の旋回方向を特殊な機器で測定したり、フッ化水素酸溶液に長時間浸して、溶解した結晶面に現れる蝕像の形で判断するが、純度が高く結晶の良好な水晶はどういうわけか右水晶が多い。 これは種となった母岩のSiO2微粒子が、既に左ネジ回りのSiO4らせん体で形成されていたからである。 SiO4らせん体の旋回方向は、自転する地球上で運動する物体に働く「コリオリの力」に影響されるが、水晶の晶出段階は静的な環境が考えられコリオリ力は作用していない。 豊富な水分下における人工水晶の育成と同様、種水晶の旋回方向に合わせて自由に向きを変えることができるのである。
SiO4らせん体の旋回方向とコリオリ力の関係については、北半球の台風の中心で右ネジ回りの上昇気流が発生していることから、南半球でSiO4らせん体が移動する際、左ネジ回りになることが予想できる。 つまり2-2(3)で述べたように、原始地球時代の月の分離独立に伴う巨大高地の誕生後、巨大クレーターの中心が北極となり巨大高地が南半球をおおい尽くして、“こま”のように自転したと仮定すれば、その後も南半球の巨大高地に繰り返し衝突した大型隕石により、地中深く形成されたマグマがゆっくりと上昇する過程で、左ネジ回りのコリオリ力が作用したと考えられる。 マグマ上昇の最終段階3-4(1)では、高純度水晶の材料になったと思われるペグマタイトの晶出が開始され、SiO4らせん体の旋回方向がコリオリ力の影響を受けて、南半球では左ネジ回りになったのである。 そしてこの左ネジ回りのペグマタイト石英(微粒子)が種になって、高純度の右水晶が晶出したと推測される。
地球形成の末期に火星級の原始惑星が衝突して月が分離するまで、地球が自転していたかどうか定かではないが、それまでにも中型隕石の衝突で生じた無数のマグマから、3-4(2)で述べたように、地下5~20kmの間に分厚い花崗岩層が形成されたと考えられ、花崗岩中のSiO4らせん体は、右ネジ回りと左ネジ回りが渾然一体となった状態にあったと推測できる。 たとえ地球が自転していたとしても、花崗岩中の石英の晶出時はマグマの上昇が停止していたため、コリオリ力の影響は受けていないのである。 花崗岩の風化した石英砂が種となった低品質の水晶は、右水晶と左水晶の発生率が半々、あるいは右水晶と左水晶の双晶(ブラジル式)となって産出される場合が多い。
(3)様々な色付き水晶、そのわけは? 目次
オートクレーブ(高圧装置)で天然水晶を原料に育成される人工水晶は、高温高圧の熱水に溶解する不純物の量がコントロールされ、無色透明で結晶が完璧に近い高品質な水晶を育成できるが、天然水晶が地中深くの石英母岩中で晶出する際は、石英母岩に様々な不純物が含まれているため、不純物の種類によっては色や形の変化した水晶が誕生するのである。 形状の変化については次項で触れるので、本項では様々な色付き水晶の着色原因について解説するが、光を透過しない鉱物の色(反射光)については、更に複雑な要素が絡むので説明を割愛する。
無色透明のコランダム(Al2O3)に、微量の不純物としてチタン(Ti3+)が入ると青色を呈したサファイアになり、微量のクロム(Cr6+)が入ると紅色のルビーになることは 4-1(1)でも触れたが、鉄(Fe2+,Fe3+)やニッケル(Ni2+),マンガン(Mn2+)なども含めたこれらの遷移金属は、特定波長の光が当たると励起状態になり易く、その波長の光を吸収してしまうため、透過して目に入る光(透過光)は吸収光の余色(補色)に変化する。 ちなみに、Fe2+は黄色の光を吸収し余色は青色になることと、Fe3+は青色の光を吸収し余色は黄色になることが知られているが、両者の鉄イオンを多量に含んだ古い(昔の?)一升ビンは、濃い緑色だったことを思い出していただきたい。
① 紫水晶(アメシスト Amethyst)
紫水晶の化学分析の結果、良質な水晶の約100倍に当たる100ppmオーダーの鉄分が含まれていることは分かっていた。 しかし、高圧熱水中で晶出した水晶に取り込まれる鉄分は、量は少ないが熱水に溶け易い2価の鉄イオン(Fe2+=青色に発色)と、熱水に溶けにくいが普通に存在する3価の鉄イオン(Fe3+=黄色に発色)で、紫色の発色は別の機構を考えなければならない。
最近、半導体材料用に発達した放射性元素の微量分析(ppb=0.001ppm単位)で、紫水晶には放射性元素が僅かに含まれていることが分かり、特に花崗岩の晶洞(流紋岩質マグマの残漿)で晶出したとみられる紫水晶に多かった。 原始地球時代に隕石からもたらされた放射性元素は、その大半が比重差で沈降したと考えられるが、原始マグマから様々な珪酸塩鉱物が晶出分離してマグマが進化する際、イオン半径の大きいウランやトリウムなどの放射性元素は取り残され、最終的に流紋岩質マグマの残漿内に濃縮される傾向にある。 つまり、紫水晶の母岩となった花崗岩中では、放射性元素の発する放射能(人体に影響のあるレベルではない)が、長期にわたって鉄イオンに与えた影響を無視できないのである。
放射性元素から放出されるγ(ガンマ)線で、3価の鉄イオン(Fe3+)から電子(e-)が飛び出して、一時的に4価の鉄イオン(Fe4+)に変わると、SiO4らせん体が切断された結晶欠陥内で、珪素イオン(Si4+)の代役(置換型)として、切れていたSiO4らせん体をつなぐ形で準安定化すると考えられる。 結果的にFe4+は常に励起した状態で緑色の光を吸収し、透過光は余色に当たる赤紫色に変わる。 そして弾き出された電子(e-)は周囲の結晶空隙に残っているFe3+に吸収されて2価の鉄イオン(Fe2+)に変わり、元からあったFe2+と共に青色を呈するため、両者のバランスで赤紫~紫色に発色すると推定される。
② 黄水晶(シトリン Citrine)
黄水晶も紫水晶と同様、3価の鉄イオン(Fe3+)が着色原因になっていると考えられる。 黄水晶は主に花崗岩の晶洞で、紫水晶にに伴って産出することが多いからである。 紫水晶と同一条件下で晶出しながら色が異なるのは、黄水晶の近くに放射性元素が存在せず、γ(ガンマ)線を照射されることなく、鉄イオンが3価のままで結晶欠陥内に取り込まれているためで、Fe3+は青色の光を吸収し易く 透過光は余色にあたる黄色となる。 また前項でも述べたように、Fe3+の他に相当量のFe2+を含んでいた場合、黄色と青色が混ざった緑水晶になることは言うまでもない。
しかし、天然に産する黄水晶は少なく、宝石のシトリントパーズ(通常はトパーズとして売られている)は紫水晶を加熱して黄色に変色させている。 既に述べたように、紫水晶はSi4+置換型の4価の鉄イオン(Fe4+)と、周辺の狭い結晶空隙に侵入した2価の鉄イオン(Fe2+)で紫色を呈しているが、これに熱を加えると、不安定(準安定)だったFe4+が電子(e-)を吸収してFe3+に戻り、Fe2+もe-を奪われてFe3+に変わるため、γ(ガンマ)線が照射される前の黄水晶の構造に戻って黄色に着色するのである。
③ 煙水晶(スモーキークォーツ Smoky quartz)
煙水晶の着色原因も紫水晶とよく似ている。 但し、3価の鉄イオン(Fe3+)ではなく、アルミニウムイオン(Al3+)が結晶欠陥に入った場合、放射性元素から出るγ(ガンマ)線によって黒っぽく着色するのである。 煙水晶は、花崗岩の晶洞から産する黒水晶に近いものから、ブラジルのバイア州などの石英脈鉱床の中心から産する淡褐色の水晶まで、色の濃淡は様々であるが、共通している点は、長期間にわたり放射性元素の影響を受けていたことである。 特に後者のバイア州は鉛の鉱山が多く、ウラン(U)やトリウム(Th)が崩壊を繰り返し、安定した鉛(Pb)まで壊変するので、何らかの放射線の影響は受けている。
3価のアルミニウムイオン(Al3+)が、珪素イオン(Si4+)と完全に置き換わるAl-同形置換でSiO4らせん体の一部を形成すると、不足する電荷を補ってイオン半径の小さいリチウム(Li+)イオンが近傍の結晶空隙に入ることは、これまで幾度となく述べてきた。 放射性元素から放出されるγ(ガンマ)線でAl3+から電子(e-)が飛び出すと、不安定な4価のアルミニウムイオン(Al4+)に変わるが、逆に電子を放出することでイオン半径が更に小さくなり、Si4+の空隙にスッポリと納まって準安定化すると推測される。 e-を受け取ったLi+はリチウム原子に変わるが、Al4+は常に励起した状態で広範囲の波長の光を吸収するため、全体に黒っぽく見えるのである。 遷移元素ではないアルミニウムは、強制的に電子を取り去ると正孔(hole)が形成され、特定の波長だけではなく広範囲の波長の光を吸収すると考えられる。
煙水晶を加熱すると色があせて消えることが知られている。 これは黄水晶でも述べたように、不安定(準安定)だったAl4+が電子(e-)を吸収してAl3+に戻り安定化するためである。 しかし、多くの文献や理化学書には、煙水晶を加熱すると黄水晶になると書いてある。 黄色に変色する理由は、花崗岩の晶洞など不純物の多い環境下で晶出した煙水晶が、アルミニウムイオンの他にかなりの量の鉄イオン(Fe3+)を含んでいるからである。 つまり、不純物の多い通常の煙水晶は いわば紫水晶との合の子で、加熱すると黄色に変色するが、鉄分の少ないバイア州の煙水晶は、加熱すると無色透明の高純度水晶に変化する。
④ 紅水晶(ローズクォーツ Rose quartz)
紅水晶はバラ石英とも呼ばれ、完全結晶化することはほとんどない。 また、着色原因に付いても、微量のマンガン(Mn2+)が入っているとか、金紅石(ルチル TiO2)の微細結晶が入っているとか諸説紛々である。 マンガンはさておいて、チタン(Ti4+)は良質な水晶の約10倍含まれていることが確認され、後者の説が有力だったが、針状結晶のルチルが入った針入水晶ならいざ知らず、激しく攪拌されることのない高圧熱水から晶出する水晶に、比重が大きいルチルの微細結晶を均一に分散させることは難しい。
とはいってもルチル説を否定するわけでもなく、完全結晶化が難しい事実から判断すると、4価のチタンイオン(Ti4+)が珪素イオン(Si4+)と部分的に置換し、SiO4らせん体の一部を構成していたと考えられる。 イオン半径の大きなチタンイオンが妨害して、完全な結晶を形成することができないのである。 更に、成分的にはSiO2の一部がTiO2に入れ代わっているわけで、分子単位でルチルが分散していると言えないこともない。 つまり、Si4+の完全置換型で結晶構造に組み込まれたTi4+が、青~緑色の光を吸収し余色として薄い紅色が目に入り、チタンの量が増えるほど赤みを増して結晶は更に不完全となる。
紫水晶(加藤氏提供) | 黄水晶(加藤氏提供) |
煙水晶+ざくろ石(加藤氏提供) | 紅水晶(加藤氏提供) |
◇ 上の4枚は各種色付き水晶で、左上の紫水晶(アメシスト)や右上の黄水晶(シトリン)は宝石にもなります。 また左下の煙水晶は、小さな満礬ザクロ石の結晶が沢山同居していて、右下の紅水晶は完全な結晶がほとんど無く、紅石英やバラ石英(ローズクォーツ)とも呼ばれています。◇
(4)様々な変形水晶と その成因 目次
天然水晶は様々な条件下で晶出するため その形状も様々で、人の顔が皆違うように、水晶も同じ形・大きさのものは皆無と言ってよい。 その中でも、各結晶面の発達の度合いによって四角や三角、更には板状の水晶も見受けられるが、本項では明らかに形状の異なる、ねじれ水晶、松茸(冠)水晶、曲がり水晶や様々な双晶など、構造的に変形した水晶について その成因を考えてみたい。 中でも典型的なのが双晶で、日本で多く発見された接触双晶(日本式双晶)や、透入双晶(右水晶と左水晶のブラジル式双晶、右水晶同士あるいは左水晶同士のドフィネー式双晶)、更にはこれらの双晶が複合化した複双晶など、水晶は右巻きと左巻きのあるSiO4らせん体が元になるがゆえに、様々な双晶が誕生するのである。
①ねじれ水晶(Twisted quartz)
六角柱状の水晶を、雑巾を絞るようにしてねじったらどうなるだろうか。 もちろん人間の力ではびくともしないし、万力とスパナを使えば割れてしまうだろう。 しかし、有機化学用の教材で組み立てた水晶の模型は、軸が多少伸びたり曲がったりするので、簡単にねじることができる。 図 5-5に水晶の結晶構造を示したが、左ネジ回りのSiO4らせん体を束ねて生じた、右水晶の右ネジ回りの連続した結晶空隙(Z)は、1本のロープの中心にたとえられる。 右上の写真のように、右ネジ回りに撚ったロープを6本(中心の分も含め7本)束ねて 六角柱状にし、右下の写真のように左ネジにねじる(右手で時計回りにねじる)と、ロープの撚りが緩んで すき間が生じることから、水晶の結晶空隙も広がることが理解できる。 つまり右水晶の結晶空隙に、空隙よりもイオン半径の僅かに大きな金属イオンが等間隔に挟まると、Si-O-Si結合角や原子間距離が広がり、水晶の柱面は左ネジ回りにねじれるのである。
天然水晶はもちろん、天然水晶を原料として育成した人工水晶でも、10ppm前後と無視できる量ではあるが、アルミニウムイオン(Al3+)の混入は避けられず、Si4+と置換されたAl-同形置換の形で均一に分散しているものと考えられる。 5-1(5)で述べたように、c軸方向に連続している空隙は最大直径1.45Åで、電荷の不足するAl-同形置換を補完して取り込むアルカリ金属イオンが、イオン半径の最も小さいリチウム(Li+)イオン(半径0.8Å)の場合でも、多少の膨らみが生じるため、アルミニウムイオンが1000ppm(0.1%)程度になると、上記の束ねたロープのように水晶の柱面に“ねじれ”が発生する。 そして3-3(2)でも述べたように、Al-同形置換によって、109.5°で固定されていたO-Si-Oの結合角が、O-Al-Oの結合角として118°に広がることも、水晶のねじれ現象を助長している。 つまり、中心軸に対する右旋回の3回らせん軸対称が3回では完全に元に戻らないため、右水晶の場合、徐々に左ネジ方向に柱面がねじれてしまうのである。 Al3+とLi+の影響については前述の「煙水晶」でも触れたが、Al3+を多量に含んだ煙水晶は色が濃いため「黒水晶」とも呼ばれ、「ねじれ水晶」はこの黒水晶に多く見られることが知られている。
②松茸(冠)水晶(Scepter quartz)
水晶の上に大きな水晶が成長した松茸水晶や、小さな水晶が成長した冠水晶は、平行連晶の現れとされるが、下部の水晶と上部の水晶とは成長した時期が大きく異なっている。 松茸水晶や冠水晶が成長する環境は、火山帯の地中深くで形成された花崗岩の晶洞や、大陸合体時に地溝帯で形成された石英砂岩を母岩とする熱水鉱床で、地殻変動の激しかった地域が考えられる。 頻繁に発生する地殻変動で水晶の成長した密閉構造が一時破壊され、再度高温高圧にさらされて高圧熱水が閉じ込められた場合、破壊を免れた水晶が母岩の一部となり、尖った頂部が種となって新たな水晶が成長したのである。
石英砂岩が母岩となり二次的に形成された熱水鉱床が、豊富なSiO2成分を含んでいた場合、古い水晶の上に大きな結晶が成長し、下部の錐面も現れた松茸型の水晶になるが、SiO2成分をほとんど含んでいない地下水などが閉じ込められると、高温高圧の下で母岩の一部となった水晶を溶かしてしまう場合もある。 また、差程圧力が上昇しなかった場合は、母岩の石英成分は溶かされにくく、相対的に長石や雲母から溶出したアルミニウムイオンや鉄イオンが増加して、金属イオンを多量に含んだ小さな水晶が晶出し易い。 冠水晶はこのような条件下で形成されたと考えられ、金属イオンの多い煙水晶や紫水晶などが冠(かんむり)のように載っているが、構造的には松茸水晶と同じものである。
③曲がり水晶(Bent quartz)と先細り水晶(Tapered quartz)
様々に変形した水晶の中で、曲がり水晶の成因が一番難題である。 密閉された熱水鉱床(晶洞)の中で、ゆっくりとした温度低下に従い圧力も低下し、SiO2の過飽和溶液から水晶が石英質の母岩の表面に成長することは既に述べたが、縦(c軸)方向の成長が著しい成長中期に、晶洞の側壁や底面に接した水晶は、SiO2成分の供給を一方向から受けるようになる。 つまり、外部(下部)からの熱の供給が無い場合、熱水の対流がほとんど起こらないため、晶洞の壁に近い部分ではSiO2成分が不足するのである。 そして、結晶が引き続きc軸方向に優先して成長する際、壁に接した部分は次第に柱面が後退し、逆に晶洞の中心側では、温度低下が顕著になるにつれ過飽和となったSiO2成分の供給が増して、柱面が盛り上がったと考えられる。
天然水晶の柱面には、c軸と直角な横縞(条線)が現れることが多い。 この条線は成長過程で温度・圧力の低下速度が微妙に変化し、SiO2成分の供給量が変化するためで、c軸方向に優先して結晶が成長する際、上部の錐面と下部の錐面が交互に現れるのである。 つまり、SiO2成分の供給が減少すると上部の錐面が成長して細くなり、逆に増加すると下部の錐面が成長して太くなり、結果的に細かな条線となって現れるが、熱水鉱床の種類によってはSiO2成分の絶対量が不足していることもあり、上部の錐面の成長が優勢となって“先細り”水晶が出現する。
熱水鉱床内のSiO2成分は水晶の晶出によって絶対量が減少するため、逆の条件の“先太り”水晶が成長することは少ない。 しかし、晶洞内でSiO2成分の濃度差が生じた場合は、両者が同時に発生して“曲がり”水晶となり、曲がり水晶と先細り水晶の組み合わせも頻繁に発生している。 更には、成長過程で折れてしまった水晶は晶洞の底面で成長を続け、折れた部分にも錐面が現れて両錐形の水晶となるが、両端が“先細り”の“曲がり”水晶も稀に見受けられる。 何れにしても、結晶のc軸と平行なSiO4らせん体の並び方は不変で、“曲がり”や“先細り”となって現れるのはSiO4らせん体の数が変化しているのである。
図 5-8 日本式双晶の構造 |
④日本式双晶(Japanese law twin)
日本式双晶は特に日本だけに産出するわけではないが、1900年代初め、山梨県乙女鉱山の夫婦水晶がヨーロッパに紹介され、日本式双晶と呼ばれるようになった。 双晶の形は{1122}面を双晶面とするV字形の接触双晶で、右の図のように90°近い角度で交わり、どういうわけか薄い板状の結晶が多く、双晶面(接合面)がもろくて割れ易い。 また、日本での産地も乙女鉱山のほか、長崎県奈留島などに限られる。
日本式双晶の成因は明らかにされていないが、SiO2成分が豊富な成長初期に無数の針状結晶が生じた際、ほぼ直角に交差した2本の水晶が肉付けされ、V字形の水晶に成長したらしい。 ひとつのヒントとして、図 5-4 に示したβ-石英の平面図と側面図を比較して頂きたい。 両者共に六角の空隙の周りをSiO4四面体が取り囲み、三次元的なネットワークを形成しているが、c軸(平面図の前後)方向に連続する六角空隙と、c軸に直交したa軸3本6方向(側面図の前後方向)の六角空隙を、ピッタリと重ね合わせた位置関係で 双晶が誕生する可能性を秘めている。 つまり、a軸方向に突き出た六角柱の稜同士が重なる位置関係(右図参照)で、ほぼ直交する2本の水晶は双晶を形成し易いのである。
水晶は他の鉱物と異なりSiO4らせん体が骨格を成すため、a軸方向にはらせん構造を形成しにいが、もしa軸方向にらせん構造が現れた場合、図 5-4 からも分かるように、a軸断面(側面図)のSiO4四面体(正方形の部分)の向きが、c軸断面(平面図)の四面体とは逆向きになることから、双晶面{1122}を鏡面とする右水晶と左水晶の反射双晶(接触双晶)が出現する。 ちなみに双晶面の面指数{1122}(正確には上の図のように表示)は、a1,a2,a3軸を1:1:-1/2で切り、c軸は最も単純なR面{1011}が切る長さの1/2で切ることを意味していて、カッコ内は常に簡単な整数で表示される(「有理数の法則」)。 そして、双晶面とc軸の成す角度θは上図の①式と②式から導かれ、2つの水晶のc軸が交差する角度は2θ=84°33′となるのである。
しかし理論上はそうであっても、実際の日本式水晶を見るとc軸の交差角にはバラツキがあり、必ずしも右水晶と左水晶の双晶になってはいない。 ましてや低温石英(α-石英)である水晶の結晶構造(図 5-5)からも分かるように、SiO4らせん体が歪んでいるため簡単に双晶ができるとは考えにくい。 成長初期の針状結晶が直交して接触していた場合、SiO4らせん体は各々の水晶のc軸と平行に結合して結晶を太らせるが、2つの水晶が交差するV字形の谷間では、SiO4らせん体が折れ曲がった状態(Si-O-Si結合角を変えないでOを中心に旋回するだけで直角に折れ曲がる)で結合し、屈折点の転移部分で-Si-OHの未結合手を残したまま急速に谷間を埋めたと考えられる。 そして針状結晶が太くなる前に谷間を埋めつくし、板状の結晶になったと同時に屈折点の転移部分の結合が弱くなったと考えるのが妥当であろう。 また、構造的にかなりの高温下で晶出を開始したと考えられ、これが産地を限定している所以でもある。
⑤ブラジル式双晶(Brazil law twin)と ドフィネー式双晶(Dauphine law twin)
ブラジル式双晶と ドフィネー式双晶を通常の水晶と区別することは容易ではない。 両者とも右水晶と左水晶、あるいは右水晶(左水晶)同士がc軸を共有し、お互いが透入し合ったもので、透入双晶又は共軸双晶と呼ばれるが、外観上は六角柱状の単結晶になるためである。 しかし結晶面のよく発達した水晶で、(2)項で述べたx面{5161}とs面{1121}の小さな結晶面が現れると、両者を区別することができる。 つまり図 5-7で、柱面m{1010}の両肩にこれらの小面が現れるのがブラジル式双晶で、柱面mとm’の右肩(あるいは左肩)に小面が現れるのがドフィネー式双晶である。 これら透入双晶の成因は、SiO2成分が豊富な成長初期に形成された針状結晶から、次第に結晶の方向が統一されて大きな水晶に成長する際、c軸方向が同じ針状結晶の中に右水晶と左水晶が共存したり、同じ右水晶でもa軸の方向が60°ずれたものが混じると、成長中~後期の緩慢成長では修復しきれず双晶の形で残ってしまうのである。
ブラジル式双晶はブラジルで発見されたのでこの名が付いたが、ブラジルでの産出は極めて稀で、むしろ花崗岩の晶洞や紫水晶の小さな晶洞によく見かけられる。 これらの晶洞や花崗岩の風化した砂岩が母岩となった熱水鉱床では、母岩中にSiO4らせん体が左ネジ回りと右ネジ回りになった石英粒が存在するため、成長初期の針状結晶は右水晶と左水晶が混在していたと考えられる。 両水晶が渾然一体となって同じc軸を共有して成長すると、右水晶が優勢な場合、左水晶はc軸に平行な面{1120}を接触面として生き残り、双晶を形成するのである。 低温型のα-石英の構造上、左ネジ回りと右ネジ回りのSiO4らせん体がa軸方向に連結することは難しいが、接触面だけ高温型のβ-石英(図 5-4)の構造に変われば連結可能で、その境界線は柱面の条線の 縦方向の食い違いとなって現れる。
ドフィネー式双晶はフランスのドフィネーの名がついてはいるものの、世界中で普通に見られる双晶である。 ブラジル式双晶と異なる点は、右水晶同士あるいは左水晶同士が透入
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