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インコネル718の乾式旋削加工


                       香川県産業技術センター  佃  昭


要  旨


 
代表的なニッケル基超耐熱合金であるインコネル718を被削材として取り上げ、乾式旋削加工試験を実施し、ニッケル基超耐熱合金の乾式旋削加工時の最適加
工条件(工具材種、切削速度等)の検討を行った。その結果、検討を行った工具材種の中では、TiCコーティング、超硬K10が比較的良い性能を示した。ま
た、切削速度については30m/min程度が適当であることがわかった。


1 .緒  言


 超耐熱合金は、タービンブ
レード等の耐熱性、耐食性等を必要とする高温用部品として広く使用されているが、機械加工に際してはその優れた高温特性のため困難を伴うことが多く、代表
的な難削材とされている。この超耐熱合金の種類は非常に多いが、主要成分により区分するとニッケル基、コバルト基、鉄基の3種類に大別され、このうちニッ
ケル基が最も多く使用されている。今回、供試材として用いたインコネル718は、このうちニッケル基に属する最も一般的な合金である。この被削材を用い、
ニッケル基超耐熱合金を旋


削加工する際の工具材種、切削速度等の最適加工条件を求めることを目的に、旋削試験を行った。


2.実験方法


 
実験は、昌運カズヌーブ旋盤(HB575)を使用し、外周長手旋削にて実施した。供試材は、中実円柱状のインコネル718(¢75×220mm、
HB=450)を用いた。実験に使用した工具は、超硬合金(K10、M20、P20)、コーティング(Al203、TiN、TiC)、サーメット
(TiN、TiC)、セラミックス(白セラ、黒セラ、サイアロン)、FRC(SiCウィスカ添加アルミナセラミックス2種類)の合計13種類である。


 切削条件を表1に示す。切削速度は、工具材種の検討時には30m/minとし、切削速度の検討時には20~90m/minとした。評価項目は、工具摩耗量および摩耗形態である。


3.実験結果および考察


3.1 最適工具材種


 インコネル718の旋削加工に最適な工具材種を検討するために、各種工具により旋削試験を行った。


 
図1に各種工具の工具摩耗量を示す。図から、コーティングおよび超硬工具は比較的工具摩耗量が少なく、特にTiCコーティング、K10が工具摩耗量が少な
いことがわかる。これに対し、セラミックス工具は工具摩耗量が多く、図には示さなかったが、黒セラにおいては実験開始直後に割損を生じたため、試験を中止
した。他のセラミックス工具においても工具摩耗量は多く、ほとんど実用に供し得ない結果となった。FRC工具は、メーカの異なる二種類で試験を行った。
メーカの別により性能が大きく異なるが性能の良い方でもK10と同程度であり、価格が高価であることを考慮すれば、実用的ではないと考えられる。またサー
メット工具については、TiNサーメットの場合はP20とほぼ同程度の工具摩耗量であるが、TiCサーメットの場合は工具の切れ刃先端に塑性変形が生じ、
実用に供し得ない結果となった。


 図2に実験後の代表的な工具摩耗顕微鏡写真を示す。図から、全般的に切れ刃の横逃げ境界部付近に凝着
が発生しており、特にセラミックス工具の場合に凝着量が多いことが観察される。また、セラミックスおよびFRC工具の場合、顕著な境界摩耗が発生している
ことが観察される。なお、TiCサーメットの工具摩耗は、切れ刃の塑性変形に起因していると考えられる。


 これらのことから、インコネ
ル718の切削時には工具切れ刃に凝着が発生し、この凝着物が脱落するときに工具切れ刃が同時に脱落し、摩耗として進行するものと考えられる。また、条件
によって発生する境界摩耗は、切れ刃の劣化により材料表面が加工硬化したために発生するものと考えられる。したがって工具材種としては、インコネルとの親
和性が低く、靭性の高いものが適していると考えられ、親和性の低いTiCコーティングや、靭性の高いK10が良い性能を示したものと考えられる。なお、
TiCサーメットの場合に発生した切れ刃の塑性変形は、TiCサーメットの物理特性、すなわち常温では高硬度であるが、高温硬度が低いことに起因している
と考えられる。


3.2 切削速度の影響


3.1で比較的性能の良かったK10、TiCコーティングおよび標準的なP20を用いて、切削速度が工具摩耗量に及ぼす影響について検討した。


 
図3に切削速度と逃げ面摩耗量の関係を示す。図から、各工具とも切削速度が30m/minまでは、逃げ面摩耗量はほぼ一定であるが、30m/min以上に
なると、切削速度の増加とともに逃げ面摩耗量も増加していることがわかる。また、その増加率はP20が最も大きく、P20においては30m/min以上の
切削速度では、ほとんど実用に供し得ないものと考えられる。


 図4に、TiCコーティング、K10、P20についての工具寿命曲線を示
す。寿命判定基準は、逃げ面摩耗幅VB=0.2mmである。図から、TiCコーティング>K10>P20の順で工具寿命が長いことがわかる。Taylor
によると、工具寿命曲線は一般に次の実験式により表される1)。


VTn=C                 (1)


 
ここで、V:切削速度(m/min)、T:工具寿命時間(min)、n、C:定数である。図4におけるnおよびCを求めると、①TiCコーティン
グ:n=0.42、C=105 ②K10:n=0.32、C=74.1 ③P20:n=0.28、C=49.8である。nは工具寿命曲線の傾きを表すもの
であるが、nの値からP20>K10>TiCコーティングの順で 工具寿命は切削速度に対して敏感であることがわかる。また、Cの値は工具寿命時間を1分
とした場合の切削速度を表すものであるが、Cの値から、TiCコーティング>K10>P20の順で切削性能が良いことがわかる。この値は、炭素鋼の
1/10以下であり、インコネルは難削性の高い材料であることがわかる。


4.結  言


 ニッケル基超耐熱合金であるインコネル718の乾式旋削加工特性を検討した結果、次の知見を得た。


(1)今回の試験条件の範囲内では、インコネル718の最適旋削加工条件は、①工具材種:TiCコーティング、K10、②切削速度:約30m/minである。


(2)インコネル718の工具損傷の特徴は、横切れ刃への凝着である。


参考文献


1)F.W.Taylor:On the Art of Metal Cutting,Trans.ASME,Vol.28(1906)


表1 切削条件










切削速度


切込み


送  り


切削距離


工具諸元


切削液



Ⅴ=20―90m/min


d=1.0 mm


f=0.1mm/rev


L=120m


(-5,-6,5,6,15,15,0.8)


clip_image001乾式





























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clip_image003

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図1 各種工具の工具摩耗量


clip_image007 clip_image009 clip_image011


  (a)K10     (b)P20   (c)TiCサーメット
















1.0mm




clip_image012 clip_image014 clip_image016 clip_image018

(d)TiCコーティング      (e)白セラ          (f)FRC B


図2 工具摩耗顕微鏡写真
















TiC コーティング


















K10


















P20




clip_image020

図3 切削速度と逃げ面摩耗量の関係











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