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切削加工時に発生するオイルミストが人体へ与える影響について話題になっていますが,低ミストタイプの切削油剤は,どのような添加剤を配合してオイルミストを抑えているのですか。

A

オイルミスト抑制用の添加剤についてお話しする前に,オイルミストの定義をはっきりさせたいと思います。
  切削加工を行っている工場等内で白っぽく「もや」がかかったような状態になっている場合をしばしば見かけますが,よく「ミストが原因している」との声が 聞かれます。しかしながら,この場合の「もや」は,オイルミストのほかに,油煙も混ざったものが空気中に浮遊しているケースがほとんどです。
 そこで,このオイルミストと油煙を以下のように定義したいと思います。

(1)オイルミスト
 加工部分に供給された切削油が微粒子化したもので,高速で切削加工する際,加工物あるいは工具によってせん断を受け,物理的に生成されたもの。

(2)油煙
 加工物が削られる際の組成変形による発熱に起因しており,主に切削点および切り粉に付着している切削油が焼けることで発生するもの。いわば熱的に生成されたもの。

こ の油煙を低減するには添加剤での対応は難しく,切削油(主にベースオイル)が軽質留分を含まず,切削性に優れた製品(加工中 の発生熱が少ない)を適用することで解決を図ります。切削油が熱せられると最初に軽質留分が煙となって蒸発しますので,極力軽質留分を含まない切削油を適 用することが重要です。

さて,本題のオイルミスト(物理的に生成された)を抑制するには,現在ポリマータイプの添加剤を使用する場合が多いようです。その中でも比較的多く用いられるのはPMA(ポリメタクリレート)とPIB(ポリイソブチレン)といわれています(図1参照)。s

オイルミスト抑制剤の種類
図1 オイルミスト抑制剤の種類(出典:石油製品添加剤 新版,桜井 俊男)

こ れらの添加剤は付着性が強く,切削油に添加されている場合,切削加工中に物理的に生成された微粒子同士が比較的短時間にくっ つき合います。その微粒子がくっつき合いながら次第に大きく成長し,最終的には自重で浮遊せずに機械内に落ちます。これにより,機械外および工場内におけ る発生ミストが減るというわけです。
 もちろん,切削諸条件によってミスト発生量にも多くの違いが出ますが,一般的に分子量が高いほど,および添加量が多いほどミスト抑制効果は強まる傾向にあります。

このオイルミスト抑制剤は主に油性切削油を対象として使用されることが多いですが,最近では水溶性切削油にも添加されるケースもあるようです。

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ビールのアルミ缶製造はかなりむずかしい成形方法で,潤滑油が重要な役割をはたしていると聞きますが,その理由などを教えてください。

A

飲 料缶の生産はここ数年かなり増加しており,各種サイズのさまざまなデザインの缶があります。このなかでビールの缶は,缶胴と ふたとからなっているため,2ピース缶と呼ばれています。またこの缶は,しぼり加工(Drawing)としごき加工(Ironing)にて製造されるた め,DI缶とも呼ばれています。材質はアルミニウムにほかブリキ(Snメッキ)もありますが,ビールに使用されている缶はほとんどがアルミニウムです。こ の缶の製造法は,かなりむずかしい成形方法であるため,ここに係わる潤滑油は重要な意味をもっています。

1.DI缶製缶工程

DI缶は,缶の胴体と底の部分が継ぎ目なしの一体構造になっている缶で,コイルから最終製品まで高速連続流れ作業で加工されています。この製缶工程を図1に示します。

DI缶製造工程図
図1 DI缶製造工程図

ま ず,コイルはアンコイラを経て,ルーブリケータで潤滑油が塗布され,マルチダイ方式のダブルアクションタイプのカッピングプ レスに送られ比較的浅い絞り加工が行われます。カップはボディメーカーへ送られます。ここでは,最終の缶径に再絞りするタンデム型のリドローダイスおよび 3段のアイアニングダイスと,その中を通過するポンチにより,薄く延ばされ所定の缶高,壁厚まで1ストロークで成形されます。この時,クーラントで潤滑お よび冷却を行いながら成形されます。さらに,ポンチの最終工程で缶はドーミングダイスにより所定の形状に缶底が成形されます。ポンチの戻り工程でストリッ パーによりポンチから抜かれた缶の開口端は,素材の耳,ストリップ不良のまくれ,座屈などのために不規則になっているので,トリマーで所定の缶高になるよ うに切断されます。その後,成形時の潤滑油およびスマットを洗浄・脱脂し,化成,印刷,ネッキングおよびフランジングを経て製品となります。

2.DI缶加工用潤滑油

2.1 潤滑油の使用方法

アルミニウム缶の場合には,図2に示すようにリオイル(再塗布油),カッピング油およびボディメーキング油の3種類の潤滑油が使用されます。
 リオイルは,圧延メーカーでコイルの保護および成形性向上を目的として,通常,静電塗油法で塗布されます。
  また,カッピング油およびボディメーキング油は,通常O/Wエマルションで製缶メーカーで使用されます。カッピング油は成形性を左右するもっとも重要な 潤滑油と考えられるため,通常20~40%程度の比較的高濃度で使用される場合がほとんどです。ボディメーキング油は,冷却性が中心となるため,クーラン トとも称され,エマルションの濃度はカッピング油よりも低く,10%付近で用いられることが多くなっています。

DI缶加工における潤滑機構
図2 DI缶加工における潤滑機構

2.2 DI缶加工潤滑油の要求性能

使用される場所により,多少の差はありますが,要求性能をまとめると表1のようになります。

表1 DI缶加工潤滑油の要求性能
(1)潤滑性(成缶性)
 ①缶外面のきず
 ②缶の真円度不良
 ③黒すじ(ブリードスルー)
(2)被洗浄性,脱脂性
 ①ブラックスポット(黒色グリース状よごれ)
 ②フレーバー性(よう素価,不飽和化合物)
(3)工具腐食(超硬工具)
(4)排水処理性
(5)乳化安定性
(6)電気絶縁性(リオイルの静電塗布)
(7)ストリッピング性

2.3 DI缶加工用潤滑油の特徴

アルミニウムDI缶加工用潤滑油市販品の性状を表2に示します。

表2 アルミニウムDI缶加工潤滑油
  市販品 A B C D
性状  

(原液)

密度 15/4℃ 0.9428 0.9348 0.9180 0.9240
引火点 (COC)℃ 198 196 168 188
粘度 (40℃)cSt 66.98 177.6 43.49 40.43
    (100℃)cSt 8.023 12.95 6.682 6.989
粘度指数 82 48 106 134

全酸価 mgKOH/g

11.2 13.0 28.6 10.7
ケン化価 mgKOH/g 20 14 137 132

ヨウ素価 gI2/100g
(10%エマルション)

16 23 11 12
pH 9.3 8.8 8.4 8.5
予備アルカリ度 24.4 9.6 38.3 13.8
基油のタイプ 鉱油 鉱油 合成 合成
乳化剤のタイプ アニオン ノニオン ノニオン ノニオン

一般的にこれらの潤滑油は,基油に油性剤,極圧剤,乳化剤,腐食防止剤および殺菌剤など必要な添加剤が配合されています。基油については,石油系と合成系があり,合成系には従来ポリエーテル系が使用されていたことがあります。しかし現在の市販品にはほとんどないようです。
 市販品A,Bが石油系であり,市販品C,Dが合成系であります。石油系では,市販品Bは粘度指数が低いことからナフテン系を用いていると思われます。合成系では,潤滑性を考慮したためにすべてエステルを使用しています。

乳化剤については,市販品Aがアニオン系界面活性剤を使用していますが,これ以外はすべてノニオン系界面活性剤を使用しています。このことは,製缶メーカーの排水処理設備の充実を意味しており,ノニオン系界面活性剤を使用してもある程度対応できる状況にあるようです。

粘度については,40℃において40~70cStにほとんど入っているが,市販品Bだけが非常に高粘度です。合成系市販品は,潤滑性が良いためか,あるいは基材の関係のためか,比較的低粘度のものが多くなっています。

酸価については,10~30程度まで分布しており潤滑性を考慮して脂肪酸を油性剤として使用していることがうかがえます。

3.まとめ

DI缶は表面品質が重要視されるため,加工における潤滑油の役割はきわめて大きくなっています。特にアルミ缶での黒すじと呼ばれる表面欠陥に関しては,潤滑油の寄与が重要なポイントとなっています。
 さらに高速製缶への動き,缶の薄肉化およびエマルション濃度低下によるコストダウンの動きなどが考えられ,潤滑油に対する要求もますますきびしいものになると予想されています。

<参考文献>
大西輝明:トライボロジスト,35,12(1990)852.

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Q1

プレス油に求められる性能と組成,添加剤とは?

Q2

プレス油の選定と使用・管理方法の動向について教えて下さい。

Q3

プレス油を取り巻く環境問題と最近の動向について教えて下さい。

金 属材料のプレス加工において,工具と被加工材の界面に働く摩擦力の制御および表面損傷の防止,すなわち潤滑技術はその加工の成否を左右する重要な因子の一 つであると言えます。プレス油は本来の目的である滑り性や,金属表面損傷(キズ・焼付き)の防止の他に被加工材料との適合性(錆,腐食・変色)や後工程 (脱脂性,焼鈍性等)への影響も考慮して作られています。このため,生産条件に適したプレス油を選定することはなかなか難しく不適正なプレス油を使えば製 品を不良にするのみならず,機械設備にまで悪影響を及ぼすことがあります。

Q1 プレス油に求められる性能と組成,添加剤とは?

A1

1.プレス油と一般潤滑油の違い

プ レス油の潤滑環境は金属の降伏点以上の塑性変形領域であり,境界潤滑状態であることが多いのに対し,一般潤滑油の潤滑環境は 金属の降伏点以下の弾性変形領域で,完全流体潤滑で繰り返し使用されます。そのため潤滑上の機能と構成成分に大きな違いがあります。プレス油と一般潤滑油 の違いを表1に示します。*1

表1 プレス油と一般潤滑油の違い

プレス油 一般潤滑油
使用目的の違い ・金属を加工する。
・摩擦を制御する。
・焼付きを防ぐ。
・冷却作用。
・機械設備の機能維持。
・摩擦を下げる。
・摩耗を防ぐ。
・冷却作用。
使用環境の違い ・金属の降伏点以上―塑性変形~破壊まで。
・主に境界潤滑状態(B.L)。
・金属の弾性変形域内。
・完全流体潤滑状態(H.L)。
構成成分の違い ・主に鉱物油を基油として,これに多量の添加剤(油性剤,極圧添加剤,防錆,防蝕剤など)が配合されている。 ・鉱物油や合成油などの基油が主成分で,これに少量の油性剤やFM剤,酸化防止剤が配合されている。
寿命 ・使い捨てが基本で寿命は短い。 ・繰り返しの使用に耐える。
・寿命は長い。

2.プレス油の要求性能

プレス油の性能については単に潤滑性能(一次性能)のみならず,付随する要求を満たす性能(二次性能)も極めて重要な特性になります。

(1)一次性能
 目的とする部品の加工が可能であるか,加工機械の能力をどれだけ発揮させられるか,どの程度の品質の製品ができるか,生産性を満足できるか,などを決定する性能因子です。

(2)二次性能
  一次性能を満たしたうえで要求される性能ですが,生産に寄与する因子としては極めて重要です。加工を安定に行ううえで問題となる因子として工具や機械の 腐食,潤滑剤の劣化,後工程に要求される性能として溶接影響性,防錆性,脱脂性,塗装影響性,樹脂等影響性があります。

(3)環境特性
 昨今では一次性能や二次性能といったいわゆる仕様性能のみならず作業環境改善・地球環境保全のための要求が増えてきました。作業環境としては低臭気・淡 色・低刺激性・低毒性,地球環境関連としては低有害性・環境分解性・廃棄処理性・リサイクル性等があります。
 一次性能は必須条件ですが,生産性に関しては,一次性能と二次性能が同様に満たされないと実用性がない場合が多く,加工が軽度な場合や対象部品によっては,むしろ二次性能が優先または重視される場合があります。

3.プレス油の成分構成および各成分の働き

プレス油は,基油に油性剤や極圧添加剤,その他の添加剤を組み合わせたものです。主に基油の粘度によって色々な粘度グレードの製品を作ることができます。表2に一次性能についての基本成分形式を示します。

表2 一次性能についての基本成分形式
タイプ 成分組み合わせ 適用
a 基油+油性剤 薄板の打抜き,軽絞り
b 基油+油性剤+極圧添加剤 難加工材の打抜き,深絞り
c 油性剤+極圧添加剤 精密打抜き
d aまたはb+固体潤滑剤 補助的に付与する

(1)基油
  基油の性質として,それ自体の潤滑性は乏しいが,一次性能や二次性能を満たすための添加剤を均一に溶かし(あるいは分散させ)必要な個所へ送り込むキャ リアとしての働きと,場合によっては冷却の働きがあります。基油は主に鉱物油が用いられ,鉱物油は原油からガソリンや灯油などの燃料油をとった残渣分を減 圧蒸留にかけ,さらに精製し製造されます。組成はおおよそパラフィン分,ナフテン分,芳香族分の3種類に分類でき,通常三者が混じり合った組成で存在しま す。パラフィン分の多い鉱物油をパラフィン系鉱油,ナフテン分が多いものをナフテン系鉱油と呼びます。現在では芳香族分・PCA(多環芳香族炭化水素)問 題で,パラフィン系・ナフテン系が主となっています。加工油剤の基油としてはパラフィン系鉱油が望ましいとされています。

(2)添加剤
  鉱物油(炭化水素)などの基油のみでは加工油剤の性能として限界があり,要求性能を満足できないため,基油に添加剤を加えることによって,元来基油に存 在しなかった性能を付与することができます。一方,添加剤を配合すること自体,またはその量が不適切なため弊害が出ることもあります。添加剤の種類と働き を表3に,代表的な添加剤を表4に示します。*2

表3 添加剤の種類と働き
目的 種類 働き 問題点





粘度指数向上剤,
増粘剤
基油の物理的(粘度)性質を向上させる。極性基を有するものは油性剤としての働きもある。 油脂に影響する場合がある。
油性剤 化合物の一部に極性基を持ち,金属表面へ吸着し吸着膜をつくり境界摩擦を低下させる作用がある。温度の上昇とともに吸着膜の配列が乱れ作用を失う。(約150℃) 脂肪酸→活性金属と反応熱的に不安定→油ヤケしやすいものがある。
極圧添加剤 油性剤よりさらに高い境界潤滑下で化学反応をし潤滑を向上させ焼付きを防ぐ(極圧反応)作用をする。
塩素,硫黄,燐の化合物などがありそれぞれ反応温度域が違う。組み合わせて用いることがある。
反応温度はP<Cl<Sの順に高い。
・塩素→鉄系材料の錆・ダイオキシン問題
・硫黄→銅系材料の変色,燃焼による硫黄酸化
・燐→活性金属の腐食
固体潤滑剤 温度に左右されず,油剤成分とは独立して潤滑作用する。主に熱間等の高温で使用されることが多い。 分散に問題あり。(ペースト状で用いる。)
溶剤蒸気洗浄による不良の可能性





防錆添加剤 湿気や腐食雰囲気から製品や工具を保護する作用。金属へ強く吸着し,腐食物質の侵入を防ぐ。
塩素化合物の如き反応性に富む物質から生じる腐食生成物を中和する作用。

油性効果の低下
極圧効果の低下

酸化防止剤 油剤の酸化劣化を防ぐ(油ヤケ防止防錆添加剤と併用することが多い。)
(熱安定性の悪い成分を含む場合)
環境ホルモンの可能性
防蝕剤 主として非鉄類の腐食変色防止。
特定の金属のみ選択的に吸着する。
めっき,はんだへの影響
表4 プレス油の代表的な添加剤
目的 種類 代表例 問題点





油性剤 ・油脂類…ナタネ油,大豆油,ラード
・脂肪酸類…オレイン酸,ステアリン酸
 (R-COOH)
・高級アルコール…オレイルアルコール,
 ステアリルアルコール
 (R-OH)
・エステル類…脂肪酸エステル
 (R-COOR')
脂肪酸は活性金属と反応しやすい。また,熱的に不安定。油脂類を含め油ヤケの原因となりやすい。
極圧添加剤

・塩素系…塩素化パラフィン,塩化脂肪酸
・硫黄系…ポリサルファイド,硫化鉱油,
 硫化油脂
・リン系…アルキルリン酸エステル
・複合系…チオリン酸塩

塩素系は鉄系金属を腐食させるので,中和型の防錆剤と併用して用いる。
硫黄系は銅および銅合金を腐食させる。活性度の高いほどこの反応は激しくなる。
固体潤滑剤 ・粒子状…滑石,金属粉末,テフロン
・層状…黒鉛,MoS2,BN,雲母
分散しづらいし,脱脂しづらい





防錆添加剤 ・スルホネート塩
・カルボン酸塩
・アミン塩
錆抑制には必要だが,あまり多く配合すると油性や極圧性を低下させる。
酸化防止剤

・フェノール類
・アミン塩類

環境ホルモンの可能性
防蝕剤 ・ベンゾトリアゾール 溶解性が悪い

Q2 プレス油の選定と使用・管理方法の動向について教えて下さい。

A2

4.プレス油の選定を取り巻く諸要素

金 属板成形においてプレス油の果たす役割については,いわゆる成形性や焼付き防止性といった一次性能のみならずむしろ,防錆性 や洗浄除去性といった生産効率に与える影響としての二次性能への要求比率が高いこと,また二次工程要素の複雑化に伴うプレス油のバリエーションは多く,そ の点でもプレス油の選択が非常に複雑になっていることについては以前にも本誌で述べた*3通りです。その後プレス油を含め化学物質を取り巻く環境は一変し 作業環境のみならず地球規模での環境保護への関心が高まり,人体・環境安全といったいわば三次性能要求が必須条件になったといってもよい昨今であります。

そ の一方で経済状況の悪化に伴い単なるプレス油の一次性能的見地でのコストパフォーマンスのみならず周辺工程を含めたトータル コストパフォーマンスの領域に突入しているのも事実であり,プレス油の選定においては化学組成から使用性能さらには周辺工程改善まで多要素要求の複合化し た複雑な時代になっています。

5.プレス油の選定方法

本稿では選択の詳細は割愛しますが,一般 に選定にあたっては以下の項目についてそれぞれの要件を検討していくことになります。 それぞれの要件にたいして適正なプレス油を充当していくことは一義的にはさほど複雑ではありませんが,度々申し上げるようにプレス油が生産活動において有 力な武器となるか弊害を及ぼすかは,それぞれの要件によるプレス油選定の総合的な最適化あるいは選択焦点の最良化が握っていると言えます。したがってプレ ス油の選定はプレス作業の中でも重要な仕事のひとつに位置付けられ,選定にあたっての供給側と使用側のコミュニケーションも非常に重要な要素になります。

(1)加工方法からの選定
  一次性能である潤滑性を確保するうえでは,粘度・添加剤の種類・添加剤の量がポイントになります。これらを検討する場合,成形性やかじり防止性の追及と いった見地のみならず他の選定項目への影響も配慮する必要はありますが,異なる一次性能側面としてごく薄板プレス・高速精密薄板プレスやトランスファープ レスにおける粘性影響や絞り加工におけるフランジしわ影響などの最適化因子も無視することができません。一般に加工方法による選定と他の選択項目による選 定の相反する点としては,極圧添加剤による一次性能と錆・腐蝕問題のジレンマや粘性増加による洗浄除去性悪化などが挙げられます。

(2)加工材料からの選定
 加工材料の観点では,機械的性質・板厚・焼付きやすさといった一次性能に関連する材料特性と錆・腐蝕といった二次性能に関わる材料特性の2つの面が選定上のポイントになります。

(3)後工程からの選定
  成形加工部品の表面にはプレス油が付着していくことになるため,後工程への影響は重要なポイントとなります。プレス油選定に関わる後工程は洗浄工程・溶 接工程・二次加工などがありますが,具体的には多岐にわたり,洗浄工程といっても油分除去率といったいわゆる除去性はもちろん,表面清浄度に関する塗装・ めっき・接着工程やはんだを含めボンディング特性等へのマクロ的ミクロ的影響性,さらには洗浄システムそのものへの負担(タクト・蒸留再生・油水分離な ど)といった考慮すべきポイントが数多くあります。このような影響性は単純に混合物として見た潤滑剤の全体的特性と諦められているケースもありますが,油 剤組成の検討により容易に解決する場合もあります。これらは単純な分類が困難であるためご相談いただくことが大切な選定上のポイントとなります。

(4)作業環境からの選定
 プレス油が影響する作業環境上の問題は床面汚れ・空気汚れ・臭気・肌荒れなどが挙げられます。これらの問題は他項目の選択要件を考慮し選定プレス油の見直しのみならず周辺改善策の実施等包括的な対応が効果的でもあります。

(5)化学物質としての選定
  環境影響面・人体影響面での選定のポイントは当然のことながらプレス油が化学物質であることに帰着します。現在ではPRTR法施行・労働安全衛生法改正 など法規制を含め化学物質に関わる情報提供と入手の環境が整いつつありますので,油剤メーカーからの情報がポイントになります。

6.使用方法・管理方法の動向

板 材成形なかでもプレス加工の場合では油剤の使用方法に関して循環使用の比率は極めて低く,いわゆるワンウェイ(使い捨て)型 の使用方法が圧倒的に多いのも特徴と言えます。トランスファープレスなど循環使用するケースでは一般の潤滑剤と同様,汚染度や油剤劣化度をモニターする項 目として比重・粘度・引火点などの物性から水分・酸価・金属分・不溶解分・添加剤濃度などの項目が従来どおりに挙げられます。ワンウェイ使用のプレス油に おいては様々な変化が現れておりプレス油の要求仕様への反映や周辺工程の対応が行われています。

昨今の大きな動きとしてはやはり本稿の後半で述べます無洗浄化手法としての無洗浄プレス油の急速な普及が挙げられ,油剤仕様の対応はもちろん工具表面処理や無洗浄化のための周辺整備(清浄度維持やインライン乾燥*4など)が同時に進められています。
  またコスト低減と環境改善の観点では油剤使用量削減や洗浄負担軽減に伴う塗油方法の改善が盛んに行われ極微量塗油や静電現象を利用した特殊塗油*5など が高速小物プレスを中心に検討や導入がされています。後工程に関してはバッチ洗浄ラインからインライン洗浄*6ラインへの変更取り組みなども見られ,プレ ス油の使用方法や使用環境を取り巻く環境が変わりつつあると言えます。

Q3 プレス油を取り巻く環境問題と最近の動向について教えて下さい。

A3

プレス油をはじめとする金属加工油剤は,一次,二次性能をともに満たすことに加え,環境負荷が小さくなければならないとの認識が明確化してきました。これらを取り巻く環境問題は工場から地域,さらには地球規模まで及ぶようになっています。
 これまで鉄系材料に適用するプレス油には,一次性能を高める目的で極圧添加剤として塩素化パラフィンが多量に使われてきました。これは,数ある極圧添加 剤の中でも鉄系材料に対する極圧作用が最も強く,かつ安価であるとの理由によるものです。

と ころが最近,米国,カナダ,欧州での短鎖塩素化パラフィン事態の毒性に係わる規制と塩素化合物全体を対象にしたドイツ等に見 られるような廃油法による規制が生まれています*1。このように国際的な動きとしての地球環境保全問題は,人類の生存基盤に深刻な影響を与える緊急かつ重 要な課題として認識されており,各国は内政的・外交上の最重要課題として扱われています。
 環境保全活動は国際的な連携により取り組まれており,主たる取り組み内容としては,地球温暖化の防止・オゾン層の保護・酸性雨の防止・海洋汚染の防止・ 有害廃棄物の越境移動の規制・森林・生物多様性の保全・砂漠化の防止が挙げられています。

7.プレス油と環境問題

プレス油は金属加工油剤に包含される生産副資材ですが,化学物質であり,様々な製造分野に使用されているため,現在の環境問題に対し十分な対応が求められています。具体的な昨今の問題としては以下のものが挙げられます。

(1)ODS(オゾン層破壊物質)問題
 過去ODSを含有したプレス油があったが,現在は対応済み。むしろプレス加工した部品洗浄の際の溶剤問題として大きく取り上げられた。

(2)PCA(多環芳香族炭化水素)問題
 プレス油の基油である鉱物油の“発がん性”に関して,米国労働安全衛生局(OSHA)基準に加え,1996年欧州連合(EU)による多環芳香族(PCA)基準を加えた取り組みが行われ,1997年4月に完了した。

(3)PRTR(環境汚染物質排出‐移動登録)問題
 PRTR 制度(Pollutant Release Transfer Resister)とは,アジェンダ21における“化学物質のデータベースと情報提供の制度化勧告”を受けて,1996年にOECD(経済協力開発機構) において世界環境保護の目的で導入勧告が採択された。日本は遅れをとっていたがパイロット事業として実施され,事業報告がなされ,1999年7月に法律化 された。

(4)ダイオキシン問題
 ダイオキシン問題は現在最もホットな話題の1つになっている物質で生物へ の毒性が極めて強いと言われている。焼却炉からダイオキシンが検出され,社会問 題になっている。生成のメカニズムとして塩素が関与するため,塩素系添加剤を含有するプレス油などの金属加工油も焼却の際に問題視される。ダイオキシン類 による環境汚染は世界的な問題として取り上げられている。

(5)その他の問題
 内分泌撹乱物質(環境ホルモン)・廃油・作業環境。

8.部品洗浄に関する環境問題

部 品洗浄に関する環境問題も金属加工関連問題として挙げられます。部品洗浄は金属加工油剤を除去する際の必須工程であり,金属 加工との関わりが大きいと言えます。ODSの全廃は法的に規制され順調に削減が進んでいるかに見えますが,代替洗浄技術導入・代替洗浄剤への変更にはまだ 問題がありますし,ODS以外の塩素系溶剤が使用されているケースも少なくありません。これらはODS非該当ですが,大気汚染・土壌汚染・水質汚濁・発が ん性といった問題があります。
 各業界団体も自主規制プランを掲げていますが,PRTR中間報告においても塩化メチレンの使用量は極めて多いとの結果があります。

一 方の代替洗浄剤としての炭化水素系溶剤としての問題は,可燃性であるための制約・一部の溶剤への有機溶剤中毒予防規則の他は 規制がありませんが,VOC(揮発性有機化合物)規制が心配されます。この他水系洗浄剤の問題として,今後水質汚染防止の強化により排水処理がますます困 難になると考えられます。

以上のように,塑性加工用潤滑剤を取り巻く環境はますます厳しくなり「環境対応型」潤滑剤や代替技術の開発が望まれています。

9.プレス油の環境問題へ対する取り組み

プ レス油の環境問題への取り組みとしては前述のODS,PCA,PRTR,ダイオキシン等もありますが,中でもプレス油の塩素 問題はダイオキシン問題の一端と考えられるようになり非塩素化の動きが大きくクローズアップしています。一方,部品洗浄に関するODSや代替洗浄問題解決 手段の1つとして潤滑性能などの問題を抱えつつも無洗浄プレス油の用途が拡大されつつあります。

(1)非塩素化への取り組み*8
  非塩素系プレス油は,従来から少なからず上市され使用されていましたが,一般加工からステンレス鋼等の難加工材やしごき等の重加工まで取って代わること のできない性能と抜群のコストパーフォーマンスを持つ塩素系プレス油の陰に隠れていました。しかしながら,現在の地球環境保全の問題から「塩素系添加剤の 使用削減さらには不使用」は産業全体の重要な課題として捉えられるようになってきました。

現在,非塩素系プレス油の実用化については様々取り組みがなされており,全般的には非塩素での対応が可能といえる段階に入りましたが,一部に取り残された分野があります。プレス加工の実施状況に基づき取り残された分野を表5に整理します。

表5 プレス加工分野における非塩素化の実状
被加工材料 加工難度 打抜加工 成形加工
薄板 厚板/一般 厚板/精密 絞り しごき
炭素鋼・
表面処理鋼板
ステンレス鋼
銅合金 ○~△
アルミニウム合金
 ○:ほぼ可能,△:やや問題がある。(主に工具寿命,製品キズ),●:困難

非 塩素化の対応性は加工難度よりむしろステンレス鋼に対する困難さが残ります。もともと塩素系極圧添加剤は鉄系材料の中でも難 加工材とされているステンレス鋼にも優れた焼付き抑制効果を発揮しましたが,硫黄やリン系を中心とした代替添加剤ではこの点を補えないためと考えられま す。また,潤滑剤のコスト面においてステンレス鋼を除いた加工対象でも塩素系と同等レベルの耐焼付き性能を確保するにはコスト高傾向があります。

(2)無洗浄プレス油の現状と課題*9
  金属プレス加工分野にとってODSであるエタンをその利便性から最大限に利用してきた経緯があり,その全廃による対応は困難な問題とされています。エタ ン全廃の対応として各種代替洗浄技術が紹介されていますが,場所や費用の点で新規設備の設置は難しいといえます。そこで,ほとんど設備投資を必要としない 無洗浄技術の1つである「無洗浄プレス油」への関心が高まっています。

無洗浄プレス油は,プレス加工時,金型と材料 間の摩擦調整や溶着防止のために用いるプレス油の一種ですが,その性質上,速乾性 加工油,揮発性加工油等の名称で呼ばれています。無洗浄油はODS対策の中でも比較的コストのかからない技術として期待されていますが,プレス油として最 も肝心な潤滑性が乏しく,これが適用できる加工形態は「打抜き」,「曲げ」などの軽加工に限定されています。しかし電機や電子などの軽加工を中心とした産 業分野では無洗浄による部品清浄度の確保と軽加工対応の特性が一致することから広く利用されるようになりました。

このように無洗浄プレス油はODS対策の一手段として開発されたプレス油であり,基油とそれに含まれる添加剤の種類によって常温-常圧下で完全に揮発消失するものから,ある程度油分を残すものまで用途に応じた多くの種類の製品が作られています。

現 在,無洗浄プレス油は揮発残渣のないものを指すことが多くなりましたが,後工程によっては不揮発分があっても差し支えない場 合や防錆のため完全に揮発しない方がよい場合もあります。清浄度に関わる危険を回避するため,あるいは不揮発分の必要性から無洗浄プレス油の種類は二分さ れています。

今後,洗浄コストの高騰に伴い経済的あるいは省工程の見地から無洗浄プレス油の用途は拡大してゆくと思われますが,揮発性物質で構成されているが故の職場環境や作業取り扱い上配慮すべき問題を克服するとともに一次性能の向上に努めなくてはならないと考えます。

<参考文献>
*1 木村 「プレススクール」 第250号
*2 木村 「プレススクール」 第251号
*3 木村:潤滑経済 P11~17,1998,NO.388
*4 日本工作油
*5 日本工作油:NESA-122
*6 河場他:プレス技術 P72~75,Vol.38 No.3
*7 (社)潤滑油協会:潤滑油類の環境適合性に関する調査研究報告―その2 2000.3
*8 木村:日本塑性加工学会 第196回塑性加工シンポジウムテキスト
*9 木村:プレス技術 VOL34 No.1 1996

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Q1

鍛造加工用潤滑剤を例えば「圧延油」のように単一語で表現する適切な文言を教えて下さい。

Q2

鍛造油にはどのような性能が求められ,そのために一般的にどのような添加剤が用いられていますか。また,その効果や今後の動向についても教えて下さい。

Q3

鍛造油の使用方法と管理技術について教えて下さい。

Q4

近ごろ環境保全に寄与する油剤が求められていますが,最近の鍛造油の動向について教えて下さい。

Q1 鍛造加工用潤滑剤を例えば「圧延油」のように単一語で表現する適切な文言を教えて下さい。

A1

鍛 造加工用潤滑剤に関する単一語はトライボロジー辞典(日本トライボロジー学会編),塑性加工標準用語集(日本塑性加工学会 編),PATOLIS[(財)日本特許情報センター],JICST(科学技術振興事業団 科学技術情報事業本部)を見る限り,文言がありません。「潤滑剤 銘柄便覧」が唯一「鍛造油」と表現しています。ぜひ,共通語ができることを望みます。共通語としては,できれば「鍛造油剤」が適当と考えますが本報では 「鍛造油」とします。

Q2 鍛造油にはどのような性能が求められ,そのために一般的にどのような添加剤が用いられていますか。また,その効果や今後の動向についても教えて下さい。

A2

鍛造加工には冷間,温間および熱間があり,炭素鋼の場合,加工の特徴は表1の通りです。これらの鍛造油に求められる性能の中で特に重要な特性は,冷間では焼付き防止であり,熱間は耐熱性です。したがいまして,鍛造油の成分や使用方法が冷間用と温・熱間用では異なりますので分けて説明します。

表1 鍛造加工の分類

冷間鍛造 温間鍛造 熱間鍛造
加工温度(℃)  室温 700~800 1100~1250
特長  加工性(難) 
精度(良)
 加工性(中) 
精度(良)
 加工性(易) 

(1)冷間鍛造油

冷間鍛造油に求められる性能としましては,主に次のことが挙げられます。

(1)摩擦係数が低く,かつ焼付き防止性に優れている
(2)加工材の寸法精度のバラツキが少なく,表面平滑度が良好であること
(3)加工材に油焼けなどステインの発生がないこと
(4)防錆性に優れている
(5)工具摩耗が少ないこと

そ のため冷間鍛造油としましては被加工材の表面に化成被膜を施し,その上に潤滑被膜処理をしたものにて鍛造加工する場合が主流 です。他には不水溶性鍛造油があります。この場合は加工材の表面平滑度を重視する時に使用します。成分は精製鉱油や動植物油脂を主成分とし極圧添加剤ある いは摩擦緩和剤が添加されております。また最も過酷な潤滑条件の場合は両者を併用した使われ方もあり,加工条件,加工精度により使い分けられています。図1は炭素鋼用化成被膜の一例です。

冷間鍛造潤滑層の断面モデル
図1 冷間鍛造潤滑層の断面モデル*2

リン酸亜鉛被膜のみでは,潤滑性がありません。リン酸塩被膜処理の後に加温したナトリウム石けん水溶液中に浸漬しますとリン酸塩被膜と反応して中間層に金 属石けんを生成します。この金属石けんおよびナトリウム石けんにて潤滑し,リン酸亜鉛被膜が焼付き防止や加工面の平滑化に寄与します。ステンレス鋼の場合 はリン酸塩被膜がつかないので,しゅう酸塩被膜を化成させ石けんをつけます。チタン合金の場合はフッ化チタン被膜と石けんを組み合わせた例があります。 *1

しかし,この潤滑処理をするために加工材表面を脱脂-水洗-酸洗-水洗-化成処理-水洗-中和-潤滑処理-乾燥 のように多くの 工程および工場内のスペースを必要とし,また廃液処理に費用が掛かる等の問題点を有しております。そのため,現在では廃棄物削減あるいは工程短縮が検討さ れ,軽度や中度加工は,一工程潤滑剤処理(ショット-エアブロ-潤滑処理-乾燥)へすでに置き換わって来ています。一工程潤滑剤の被膜の組成については, 公開されていませんが化成処理のような反応膜までは形成していないようです。被膜の公開および更なる鍛造性の向上が待たれます。

不 水溶性冷間鍛造油につきましては不水溶性切削油に類似の組成のものが使用されており,油性剤(液状ラード,大豆油,ナタネ油 など)や極圧添加剤として塩素系極圧添加剤(塩素化パラフィン,塩素化油脂など),リン系極圧剤(TCP,酸性リン酸エステルなど),硫黄系極圧剤(硫化 油脂,硫化オレフィンなど)をさらに摩擦緩和剤としては有機金属系摩擦緩和剤(亜鉛ジチオリン酸塩,モリブデンカルバミン酸塩,ナフテン酸鉛など)を単独 か組み合わせて使われております。油性剤は加工時の摩擦係数を低くし,極圧添加剤や摩擦緩和剤は鍛造加工時に生じる熱により,加工材と工具の界面に反応膜 あるいは高分子生成物を生成させて焼付きを抑えます。鉛化合物を現在,止むを得ず使用している所もあります。

今後の 動向としましては,ナノメーター・オーダーの無機系超微粒子を油中に分散させた高塩基性有機酸塩を用いたタイプや不水溶 性反応膜タイプの冷間鍛造油が市場に紹介されておりますが,更なる飛躍として,いわゆるボンデレス化に伴う潤滑処理工程の簡易化や廃棄物削減が進むものと 考えます。

(2)温・熱間鍛造油

温・熱間鍛造油には表2のような性能が求められています。特に温間鍛造油には鍛造性を,熱間鍛造油には金型の寿命延長が求められています。

表2 温・熱間鍛造油の要求性能*2
 1. 鍛造性(成形性,潤滑性,離型性)に優れていること
 2. 金型に対して幅広い温度域(100~400℃)で付着すること
 3. 被膜性に優れていること
 4. 耐熱性が高いこと
 5. 金型の冷却性に優れていること
 6. 金型内に残渣(鍛造油の燃えかすおよびスケールなど)が堆積しないこと 
 7. 発火,発煙のないこと
 8. 金型および金型回りから容易に除去できること
 9. 金型や鍛造機械,付属の機器を腐食しないこと
 10. 人体および作業環境に対して安全なこと
 11. 混入作動油に対する分離に優れていること
 12. 使用簡便で経済的であること

従来から温・熱間鍛造油には固体潤滑剤として黒鉛が使われており,黒鉛の有する(1)潤滑性 (2)耐熱性 (3)燃えかすが堆積しにくいといった性質が,特に温・熱間鍛造加工に適しているのではないかと考えます。

温・熱間鍛造油は不水溶性と水溶性に大別されます(表3)。

表3 温・熱間鍛造油の種類
タイプ 成分
主成分
固体潤滑剤
その他の添加剤
黒鉛系 水溶性 水分散タイプ 黒鉛 水溶性高分子,
界面活性剤等
エマルションタイプ  鉱物油,油脂類 黒鉛 界面活性剤等
不水溶性 鉱物油,油脂類 黒鉛 極圧添加剤(硫黄系)等 
非黒鉛系  水溶性 透明タイプ  水,カルボン酸塩  水溶性高分子,
界面活性剤等
水分散タイプ 水,カルボン酸塩  白色系固体潤滑剤  水溶性高分子,
界面活性剤等
エマルションタイプ 鉱物油,油脂類 白色系固体潤滑剤 界面活性剤等
不水溶性  白色タイプ 鉱物油,油脂類 白色系固体潤滑剤 極圧添加剤等

不 水溶性タイプは鍛造性が良好ですので,軸押出しのような重(難)加工に使用されますが発火,発煙の管理対策が必須条件となります。水溶性タイプは冷却性良 好で金型の長寿命化が期待できますが,反面,鍛造性に乏しいため,主に据え込みのような軽加工に使われています。エマルションタイプ鍛造油は固体潤滑剤を 精製鉱物油に分散しておき,同時に添加されている界面活性剤で水中へエマルション化したものです。したがって,不水溶性と水溶性の良い面を活かしたタイプ ですので軸押出し加工も可能ですが冷却性がやや劣ります。

成分別に分類しますと黒鉛系鍛造油と非黒鉛 系鍛造油に大別されます。黒鉛系鍛造油は黒色であることから作業環境汚染が問題視され,非黒鉛化が求められています。不水溶性の分野では固体潤滑剤として 無機系カルシウム化合物,炭水化物類,金属石けんなどおよびそれらを組み合わせて使用することにより,黒鉛系鍛造油から非黒鉛系鍛造油に置き換わりつつあ ります。

水溶性の場合,経済性の点を含めますと黒鉛系水分散タイプに匹敵する鍛造性を有する非黒鉛系鍛造油は,未だ 市場には登場してお りません。ただし据え込み加工を主体とした形状の熱間鍛造には透明タイプが約20年前から使用され,金型寿命の点で黒鉛系水分散タイプより良好な結果を得 ているものがあります。理由については充分な裏付けは得られていませんが,加工物の形状が黒鉛系では潤滑過多ですべりすぎ金型の摩耗を促進していたのに対 し,透明タイプの有する摩擦係数が加工物の形状を潤滑するのにうまくマッチングしていたため摩耗量が減少したと見られています。実際の鍛造加工時における 正確な摩擦係数を求める作業が現在進行中と聞いております。

一般的には黒鉛系水分散タイプと透明タイプの性能比較は表4の ようにい われており,黒鉛が層間で潤滑するのに対し,透明タイプ(カルボン酸塩)の潤滑機構は鍛造時に熱分解を起こし一部は流体潤滑,大半は熱分解残渣となり被膜 潤滑を向上させ,熱分解により生じた分解ガスの離型作用が加わり,潤滑・離型効果を発揮するものと推測されます。なお,透明タイプに使用されますカルボン 酸塩には直鎖二塩基酸塩,芳香族カルボン酸塩など種々種類があります。またカルボン酸塩を金型表面へ均一に密着させる接着剤として水溶性高分子(セルロー ス系,アクリル酸系,ポリビニール系等)が添加されております。

表4 黒鉛系水分散タイプと非黒鉛系透明タイプの性能比較*2
鍛造油の性能  黒鉛系水分散タイプ   非黒鉛系透明タイプ 
潤滑・離型性
金型寿命
金型への付着性
被膜性
耐熱性
金型の冷却性
金型への堆積性
ガス放出量
鍛造設備への腐食性  
人体への安全性
混入作動油の分離性
循環使用への適合性
排水処理性
環境美化性
総合的な経済性
 性能順  ◎:優 ○:良 △:劣

今 後の動向につきましては加工法が熱間から温間へ,鍛造油は不水溶性から水溶性へ,また黒鉛系から非黒鉛系への移行がさらに進むものと考えます。水溶性鍛造 油(透明タイプ,水分散タイプ)の中には黒鉛系鍛造油に匹敵する鍛造性を有するものがあり,市場にて評価されつつあります。

Q3 鍛造油の使用方法と管理技術について教えて下さい。

A3

(1)冷間鍛造油

加工材を被膜処理した場合の冷間鍛造加工は適当な寸法に切断後そのまま加工されます。加工時の使い方よりむしろ,被膜処理の管理の方が特に重要です。鋼の潤滑処理条件の一例を表5に示します。

表5 鋼の冷間鍛造潤滑処理条件*2
No 工程 標準薬剤 濃度 温度(℃)  時間(分) 
 (1)  脱脂 パルクリーン357 3~5% 80~85 3~10
(2) 水洗

RT 1~5
(3) 酸洗 塩酸 10~15 RT~40 3~10

硫酸 10~15 50~70
(4) 水洗

RT 3~5
(5)  被膜化成   パルボンド181X  全酸度 35~60ポイント
促進剤 1~3ポイント
80~85 5~10
(6) 水洗

RT 1~5
(7) 中和 パーレン21 0.1~0.3% 70~80 1~3
(8) 潤滑 パルーブ235 バブコックナンバー 1.5~3.0ポイント 
遊離酸度 0~1.0ポイント
75~85 3~5
(9) 乾燥

 自然乾燥 

各工程の中で管理上のポイントは次のような点が挙げられます。

(1) 脱脂では脱脂された油分の再付着防止や液中の金属石けん混入量の制御がポイントです。(3)酸洗では濃度,温度管理のほ か,鉄分の管理はリン酸亜鉛被膜の密着性や付着量に影響しますので特に重要です。(5)被膜化成では外観が灰白色または灰黒色の針状結晶や粒状結晶をある 程度緻密に生成させる。そのため化成処理液の遊離酸度と全酸度を測定し,酸比=全酸度/遊離酸度による処理液の管理のほか,温度管理幅および促進剤の濃度 幅の制御がポイントです。また処理液の廃液およびスラッジの処置が特に重要です。(8)潤滑工程では金属石けん生成量は処理液の濃度,温度,時間,pHに 影響を受けます。中でも遊離酸度と処理液濃度のバランスの管理が重要です。

以上の工程にて生成されたリン酸亜鉛被膜+反応型石けん潤滑被膜は図1のように,湯溶成分,金属石けん,残存リン酸塩被膜の3層になっており,各層の膜圧は定められた操作法にて測定することにより,単位面積当たりの重量で確認できます。

こ のように化成被膜+潤滑処理された加工材は棒材あるいは線材の状態にて鍛造加工ラインに運ばれて来ます。そして,加工部品の 形状に合わせて適当な長さに切断し,鍛造加工されますが,切断されることにより端面は化成被膜+潤滑膜が消失します。そのため,加工部品の形状によっては 端面の潤滑を目的に冷間鍛造油を給油しながら鍛造加工する場合が多くあります。所定の大きさのタンクに貯蔵された冷間鍛造油はポンプアップされ加工面へ供 給されます。塑性加工熱の発生により工具の温度が上昇するため,工具の冷却を兼ねて多量に供給されます。液中で加工していると言っても過言ではありませ ん。

冷間鍛造油の多くは不水溶性ですので,水溶性に較べ油による冷却効果はあまり期待できませんが,供給量を多くす ることにより 補っている部分があります。冷間鍛造油を用いる主目的は焼付き防止ですが冷却効果も見逃せません。その冷却効果は油の粘度により制御されます。したがいま して,鍛造加工条件に応じた冷間鍛造油の選定において,粘度は重要なファクタです。

冷 間鍛造油の管理において,重要なことは循環使用されますので,他油等異物の混入防止,加工時に生成したスケールの除去,添加 剤など有効成分消失に伴う適度な新油の補給が必要です。特に化成被膜+潤滑処理された材料を使用しているラインでは冷間鍛造油中に金属石けん等の混入が多 くあります。そのため油の管理においては,遠心分離機等ハード面による除去は基より,鍛造油中の異物混入量や粘度の管理を徹底することが重要であり,それ が安全操業ならびに工具寿命延長につながります。

(2)温・熱間鍛造油

温・熱間鍛造油の使 用方法には,(1)給油法は自動給油と手作業,(2)給油量は多量給油(循環使用)と金型表面に乾燥被膜を 形成させて加工する少量給油(回収液なし)があります。1台の鍛造機で同一の加工部品を多量に生産する時は自動給油で循環方式が採用されておりますが,多 品種を生産しなければならない鍛造機では金型の交換頻度が多く,また,それに伴う給油装置(特にノズルの位置および数)の変更がありますので自動化は難し いようです。

水溶性の場合,給油はほとんどがエアースプレー方式です。手作業の時はハンドガンを用います。自動給油 の時はハンドガンのよう に自由に給油位置や給油量を調節できず,また固定ノズルの場合には給油の死角が生じることがあります。したがって,鍛造油に給油していない所まで被膜が拡 がる性能を求める場合もあります。移動ノズルにより中央から均等に給油されることが好ましいと考えます。給油量は金型温度を何℃に制御するかにより決まり ますが,鍛造油の乾燥被膜を金型表面へ均一に形成しやすい温度は,経験的に150~250℃です。鍛造油は金型温度が高いと水の蒸気膜にて付着が妨げら れ,低すぎると形成した被膜が流されてしまいます。金型温度の管理は加工部品の形状や各社の思想により一概には言えませんが,金型の寿命の点からは極力低 い方を狙い,自動機によっては水中にて鍛造しているように見える所もあります。潤滑の立場から考えますと金型表面に乾燥被膜を形成したうえで加工した方が 良好な潤滑が得られます。鍛造油の管理は濃度管理が何よりも優先されます。濃度は10~50倍の範囲(設定濃度に対し±2倍)で使用されており,一般的に は20倍使用がひとつの目安になっています。

不水溶性の場合は,自動給油ではエアレススプレー方式が採用されており,手作業の時は,ハンドガイドの先端にウェスを巻き付けておき鍛造油をウェスを通して金型面に手塗りします。

循 環使用の管理においては水溶性,不水溶性ともハード面からの対応になりますが,他油およびスケールの混入防止ならびに除去が 重要であり,使用油の定期的分析が必要になります。さらに固体潤滑剤の沈降等による有効成分の減少がありますので新油の補給が必要になります。また,水溶 性の場合は腐敗防止も重要であり鍛造油中に前もって防腐剤を添加しておきます。なお,不水溶性の非黒鉛系鍛造油において,固体潤滑剤を超微粒子にして油中 へ分散させることにより循環使用しても有効成分の減少が少なく,新油の補給量が1/10になった事例があります。

Q4 近ごろ環境保全に寄与する油剤が求められていますが,最近の鍛造油の動向について教えて下さい。

A4

冷 間鍛造関連では前項で記載しましたが,化成被膜+潤滑膜処理を行った時に発生します廃液およびスラッジの処理が問題点のひと つです。特に廃液中に含まれるリンおよび重金属は自然界に必要以上に存在しますと生物の生態系が狂います。現在開発が進行中であります一工程潤滑剤は廃液 の発生量の大幅削減が期待されます。

冷間鍛造油では極圧添加剤の中の塩素系極圧剤の代替が最大の問題です。冷間鍛造 油に使用されております塩素系極圧剤の多くが塩 素化パラフィンであり,短鎖(C10~C13)の塩素化パラフィンはげっ歯類動物の動物実験にて発ガン性が認められております。また,水生生物への毒性影 響の観点から国際輸送上も海洋汚染物質に指定されております。さらに米国,ドイツなどに見られる廃油法の規制があります。塩素化合物含有の廃油は焼却炉に て燃焼処理した場合,不完全燃焼の時にダイオキシンを発生する可能性があります。塩素化パラフィン自体を規制しているのではありませんが,塩素含有量の多 い塩素化パラフィンなどは規制の対象に挙がって来ています。*3我が国でも塩素含有廃油はその処理を専門業者に委託すべく指導が行われて来ております。切 削油剤のJISからは不水溶性油剤2種,水溶性油剤のW1種2号およびW2種2号を削除する動きがあります。

さら に,1999年7月に「特定化学物質の環境への排出量の把握および管理の改善の促進に関する法律」が法制化されました。こ のPRTR(Pollutant Release and Transfer Register;環境汚染物質排出移動登録)とは環境汚染物質のあらゆる媒体(大気,水域,土壌)を経由し排出される量,および廃棄物として廃棄物処理 業者に移動される量を調査し,報告する制度です。鍛造油関係で調査対象物質に挙げられるものとしましては,亜鉛化合物,モリブデン化合物,ホウ素化合物, エタノールアミンなどが予想されます。これらの成分情報公開手段としましては,MSDS(Material Safety Data Sheet:商品安全データシート)への記載が有効ではないかと考えます。*4

温・熱間鍛造油に関しまして,黒鉛は環境保全の立場から見ますと,安全です。むしろ水溶性透明タイプの中には廃液処理性の劣るものがありますので確認が必要です。


<参考文献>
*1 塑性加工におけるトライボロジー:日本塑性加工学会編 コロナ社
*2 鍛造加工技術・技能マニュアル:全日本鍛造協会中小企業事業団情報・技術部編
*3 潤滑油類の環境適合性に関する調査研究報告書:潤滑油協会
*4 守田洋子・吉田一樹:日石三菱レビューVOL4.1 No4. 1999. p161

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Q1

引抜き油にはどのような性能が求められ,そのために一般的にどのような添加剤が用いられますか。また,その効果や今後の動向についても教えてください。

Q2

引抜き油の使用方法や管理技術について教えて下さい。

Q3

最近の引抜き油の動向について教えて下さい。

近年,引抜き油に対しては,製造コストを削減するため,使用油に低粘度での高性能加工油が要求されたり,あるいは環境問題に適合した添加剤への使用変更等,多くの要望が出ています。
 さらに,種々の金属加工材料においては従来より,より規格の厳しい範囲での製品供給が義務づけられている状況であり,それに伴い引抜き油への課題と期待は大きくなっています。
 ここではまず,引抜き加工における概略を述べます。

Q1 引抜き油にはどのような性能が求められ,そのために一般的にどのような添加剤が用いられますか。また,その効果や今後の動向についても教えてください。

A1

1.引抜き加工

引抜き加工は従来から線,棒,管を用いて行われており,材質としては鉄,銅,アルミニウム等といったものです。
 材料とダイス,または材料とプラグとの摩擦,摩耗を減らし,引抜き速度,断面減少率(R/D)を増大させて加工能率と製品品質の向上を図ることを目的としています。
 プラグの種類は玉型,フロート型,円筒型と3つで,材質としては超硬が主に用いられ,耐焼付き性を向上させるために,TiC,TiN コーティング等の表面処理を施したものも用いられます。
 加工方法においてはプラグ引抜き機,コイル引抜き機(ブルブロック),強制潤滑引抜き機,超音波引抜き機等が挙げられます。

2.加工材質別の油剤

次に加工材質別の油剤について述べます。

(1)鉄鋼
 引抜き油は,水溶性と油性に分けられます。
  素管は酸化スケールを酸洗(硫酸希釈液)で除き水洗後に化成被膜処理を施して,その後引抜き油を用いて加工します。近年は水溶性,油性ともに高い加工性 能が要求されており,P,Sを含んだ油剤が期待されています。さらに組み合わせ内容によってはMo,固体潤滑剤を含んだものも使用されることがあります。

ただし,極圧添加剤の使用に関しては組み合わせて効果がマイナスとなる場合もあり,開発の際には環境への影響,人体への影響といったことも念頭に置かなければなりません。
 用途によっては寸法精度,表面粗度の非常に厳しい加工製品にも用いられることもあり,潤滑性のみならず仕上がり性能への配慮も必要です。

(2)銅,銅合金
  銅の加工にも水溶性,油性の両タイプが用いられますが,品質面から油性がより多く使用されます。管の場合,内外面では要求される性能も異なるため,使用 する油剤の構成は若干異なります。内面では残留炭素分,灰分の規準をクリアした油剤であることが必要で,一方外面においては,引抜き性能が重要です。s

銅,銅合金の場合は,一般的にはCl,P,Sは用いず,エステル,高級アルコール等が用いられます。特に外面用では動植物油脂,高級脂肪酸も主要成分の一つです。
 給油が浸漬での場合は,水溶性タイプが用いられます。中には焼鈍工程のある材料もあり,変色しないような油剤が望まれます。
 油性,水溶性ともにロングライフ維持のため様々な管理事項が組み入れられるようになりました。

(3)アルミニウム,アルミニウム合金
 アルミニウムは軟らかく展延性に富む金属ですが,用途によって様々な元素を加えたアルミニウム合金として使用されます。
  引抜き加工は,線,棒,管に分けられ上記三者とも変形様式は同じですが,製造技術全般では,異なった発展をしてきた面も見られます。抽伸機においてはド ローベンチ,連続抽伸機(各種ブルブロック等),コンバイドマシン等に分けられます。短尺はドローベンチ,長尺は連続抽伸機等で引抜きされます。
 両者とも,合成ワックス,合成樹脂等を使用した水溶性油剤と,極性の強い高級脂肪酸,エステル等を用いた油性油剤とを使い分けされています。

表1に油剤の組成を,表2には加工材質別における油剤への要求特性を示します。

表1 油剤の組成

油性潤滑油 水溶性潤滑油
基油

鉱物油
合成潤滑油
動植物油脂
合成ワックス
樹脂類

鉱物油
合成潤滑油
動植物油脂
合成ワックス
樹脂類
添加剤
油性向上剤
極圧添加剤(P,S等)
酸化防止剤
防錆剤
変色防止剤


油性向上剤
極圧添加剤(P,S等)
酸化防止剤
防錆剤
変色防止剤
界面活性剤
消泡剤
防腐剤
表2 加工材質別における油剤に対する要求特性
・安定した油膜強度
・極圧性が大
・P,S等の極圧剤を用いる
・水溶性では安定したO/Wエマルションタイプ。
・潤滑性が良く,焼鈍後,オイルステインのないこと。
・極圧剤使用は避ける。
・水溶性では安定したO/Wエマルションで低泡性。
アルミニウム ・安定した油膜強度。
・オイルステインのないこと。
・水溶性ではワックス等の硬質膜タイプを使用。

3.代表的な添加剤

次に代表的な添加剤を述べますが,表3の要素を含むことが望まれます。

表3
①材料とダイスおよびプラグ間の摩擦を小さくする。
②高速引抜きが可能。
③変形抵抗の高い材料の引抜きが可能。
④引抜き後の表面仕上がり,寸法精度が良好。
⑤引抜き工具の摩耗,損傷が少ない。
⑥管理が容易。
⑦引抜き後の除去が容易。
⑧熱処理で,材質に悪影響を与えない。
⑨変質しにくい。
⑩入手コストが安価。

潤滑油の使用目的は摩擦表面に適当な油膜を形成させて金属接触を防ぐことで摩擦を低減し,摩耗,焼付きを防止することです。

①一般的な油性向上剤は,長鎖化合物で極性を持つものが多く,代表的なものとしてオレイン酸,ステアリン酸等の高級脂肪酸,高級アルコールおよびそのエステル(モノエステル,ジエステル,ヒンダードエステル)類が挙げられます。
 ②鉱物油は石油系の炭素と水素の化合物で,主にパラフィン系の高度精製油が使用されますが,他に環状のナフテン系,芳香族系があります。
 ③動植物油脂は,比較的融点の低い牛脂,豚脂,ナタネ油,パーム油等が使用されます。
 ④合成油は人工的に合成された油で,種々の構造式のものがあり,また分子の大きさも自由に変えられます。主に炭化水素系,エステル系が使用されます。
 ⑤ 極圧剤は摩擦面で油膜が切れた時に生じる発熱で,金属と反応し摩擦面に被膜を生成することにより金属同士の接着を減少させて摩耗,焼付きを防止するも のです。極圧剤としてはCl,P,S,を含む化合物あるいはZn,Moを含む化合物およびこれらを複数組み合わせたコンパウンドタイプといったものも用い られます。最近では固体潤滑剤を分散させたタイプもあり,それらと加工材料との適合性を考慮しつつ選択する必要があります。
 ⑥その他必要に応じて酸化防止剤,防錆剤,消泡剤,粘度指数向上剤等を使用します。

図1は横軸に温度,縦軸に摩擦係数をとり,耐荷重添加剤の効果を模式的に示したものです。


図1 潤滑の限界と添加剤混合による潤滑性

曲 線Ⅰはいわゆる吸着膜を形成する型の添加剤の効果を示したもので,常温では効果を発揮しますが高温ではその効果が失われることを示しています。また曲線Ⅱ は硫黄化合物に代表される反応性の添加剤による効果を示したもので,常温付近では効果がなく高温になると反応が進み効果を発揮する様を示しています。ここ でこの両者の型の添加剤を初めから混合して用いれば,理想的には曲線Ⅲのようにすべての温度域で効果を発揮する潤滑剤を調合できることになります。

これが耐荷重添加剤の調合技術に関する基本的な考え方です。しかし曲線Ⅲはあくまでも理想的な場合であり実際には,潤滑条件の完全なる把握の困難さや,調合した各添加剤間の相互作用等,数々の問題を含んでいます。それについてはここでは触れないでおきます。

Q2 引抜き油の使用方法や管理技術について教えて下さい。

A2

引抜き油の使用方法を加工材別に表4にまとめます。

表4 加工材質別の油剤の使用方法

油剤の種類 給油方法
鉄鋼およびその合金 油性
水溶性
反応タイプ
浸漬(常温~50℃)
循環
銅およびその合金 油性
水溶性
浸漬
強制給油
循環
アルミニウムおよびその合金 油性
水溶性
塗布
浸漬
循環

管理方法については,油剤のタイプ,加工材料,加工方法によって異なります。水溶性では液の腐敗劣化,油性では水分混入といったところが油種タイプにより違う項目です。油剤の管理方法は各社メーカーのノウハウではありますが,一般的な管理項目およびその目的について表5にまとめます。

表5 油剤の保守管理事項

管理項目 目的
水溶性 pH

エマルションの安定の目安。腐敗・防錆の管理に。

油分濃度 適正な,使用油分濃度の管理
酸価 脂肪酸添加量の管理。使用油では劣化酸も酸価として検出される。
けん化価 エステル,脂肪酸の管理
灰分 油剤中の金属分の管理
乳化安定性 エマルションの安定性と引抜き特性
腐敗 pH低下,エマルションの破壊,悪臭につながる。
油性 粘度 異種油の混入,油剤の分解の目安,粘度変化は,引抜き特性の影響大。
灰分 油剤中の金属分の管理
酸価 脂肪酸添加剤の管理,使用油では劣化酸も酸価として検出される。
けん化価 エステル,脂肪酸の管理
水分量 油剤の変質,引抜き特性に影響
密度 異種油混入の目安
添加剤濃度 P,S,Fe,Cu・・・等
ICP,FTIR,蛍光X線,原子吸光,GC,高速液クロ
使用油の汚れの目安や,新油中の金属系添加剤量の管理。

油剤は劣化の程度を目安に入れて設計が行われており,ある程度の幅で,管理値が設けられるものです。近年は使用される油剤の種類も複雑になるにつれ,油種によっては管理項目数が増えている状況も見られます。

4.代表的な管理項目

(1)酸価
  酸価より脂肪酸の混入量を知ることができ,また劣化の判断をするうえでも必要です。油剤が加工上のせん断等により分解されたり,過剰な熱履歴を受けて酸 化される場合がありますが,その際にも酸化物が生成します。その酸化物は酸価として検出されることがあり,油種によっては酸価の微妙な変動にも注意を払わ ねばなりません。熱劣化が促進すればラッカー,スラッジを発生することがあります。

(2)灰分
 スラッジ,金属粉の蓄積が引抜き時の焼付き,スリ傷等を起こす要因となります。油剤の劣化や外部から混入する摩耗粉等の固形物も灰分として検出されま す。フィルタろ過等を行えば灰分値は低く管理できます。灰分値は加工材質と加工条件にも大きく左右されます。

(3)添加剤濃度
 油性向上剤,極圧添加剤等は使用中選択的に持ち出される場合があります。極端な添加剤濃度の低下を回復させるため,一部の添加剤を補給する方法もとられます。

(4)腐敗
  水溶性油剤ではpH,油分濃度が管理基準内であっても,微生物,特にカビの発生により,タンク壁,配管内においてスライム化することがあります。一般的 には防腐,防カビ剤投与で対応します。一定時間のエアレーション,油槽の一定時間加温も効果的な防腐対策です,防腐,防カビ剤の選定に当たっては,油剤と 加工材に与える影響を考慮して使用されます。

5.処理方法

一般的な処理方法を表6に示します。

表6 一般的な処理方法
項目 値が低い場合 値が高い場合
粘度 成分を考慮しつつ高粘度のものを添加。 成分を考慮しつつ低粘度のものを添加。
水分量 セットリング槽で静置しドレイン抜きをする。
酸価 脂肪酸の多い添加剤を添加。 脂肪酸の少ない添加剤を添加。水溶性の場合は,アルカリ剤を添加。
灰分量 各種フィルタやろ過器,遠心分離機を使用。または液の更新。
pH 酸価と連動することが多くアルカリ剤を添加することが多い。 脂肪酸系の添加剤を添加する。

潤滑油の性状を定期的に測定した結果,水溶性油剤で図2のような灰分の傾向を得ました。

潤滑油の灰分の傾向
図2

実際には加工条件,使用頻度,前工程の条件等,不安定な要素が多くありますが,この傾向と使用時の状況等,詳細な情報との関係をつかむことで諸問題を未然に防ぐことが可能となります。もちろん,他の管理項目も同時にチェックすることが望ましいでしょう。

A3

近年,ユーザーでの製造工程,加工油の見直し,またコストダウン対策,環境に配慮した新しいタイプの添加剤への切り替え等,いくつもの課題があります。ただし,一気にそれらの要求をすべてクリアするのは容易ではありません。
 以下に,最近の進行中のテーマ等,今後の動向について述べます。

6.油剤の加工特性向上

鋼管の引抜き加工では,引抜きの際の潤滑性向上として,現在,リン酸亜鉛被膜処理等を行い,その後水溶性あるいは油性油剤を用いて引抜き加工が行われます。
 両タイプともに極圧添加剤,減摩剤を単独あるいは複数組み合わせることで加工性を向上させることが可能となり,しかも材料表面の仕上げ粗さも改良されています。
 それらの成果は油剤の変更によること以外に,使用条件,工程の見直し,工具類の改良等にも起因しているという事実は見逃せません。

次の結果はある潤滑剤の摩擦係数を図3の装置で測定したものです。図4にその結果を示します。

Ball-plate型摩擦試験機
図3 Ball-plate型摩擦試験機
昇温時における摩擦係数
図4 昇温時における摩擦係数(SK材)

鉱 油ベースに有機Mo系極圧添加剤(Mo-DTC)5%入れたものと,それに有機P系極圧添加剤を1%併用したものの摩擦係数 の温度別の変化を示したものです。その結果,Mo-DTC単独でも摩擦係数は良いのですが,P系添加剤を微量添加することで相乗効果が現れ良好なμ値が得 られることが判ります。
 したがって,各種の極圧添加剤を適度に配合することで優れた性能を有する潤滑剤ができます。
 こういった油剤を一液タイプ(前処理剤兼潤滑剤)として置き換える試みがあります。

ま た油剤の粘度においてはもちろん低いほうが扱いやすく持ち出し量も少なくて済みます。しかし,低すぎると操作性は良いものの 油膜切れを起こしやすく,逆に粘度が高すぎると材料表面のオイルピットに油剤がプールされにくくしかも,ダイス内に潤滑剤が入り込みにくくなります。この ことから,粘度に関しても適度な値が望ましいといえます。

7.プラスチックの塑性加工へs

省エ ネ対策としてプラスチックへの転換も一部では見られます。現在はプラスチックでは射出成型法が主ですが,塑性加工法も日々 進歩しており,引抜き加工においても試みをなされています。これまでは成型後のひずみ回復による寸法不安定性のため,長い間敬遠されてきましたが,これか らのテーマとしては十分に技術革新が多く望まれており潤滑油業界としては注目していく分野でもあります。

<参考文献>
*1 アルミニウム技術便覧 カロス出版
*2 潤滑グリースと合成潤滑油 幸書房 藤田稔著
*3 引抜き加工 コロナ社 日本塑性加工学会
*4 トライボロジスト vol.43 No.12 1998 大同化学工業 岡本隆彦
*5 潤滑管理マニュアルブック 潤滑油協会
*6 潤滑経済 1998.6
*7 潤滑ハンドブック (株)養賢堂
*8 新版石油製品添加剤 幸書房 桜井俊男
*9 潤滑経済 1998.8 鋼管圧延油クーラントの管理
*10 塑性と加工 vol.39 1998.4 No.447 引抜き用潤滑剤の現状と将来 永井,篠木,冠
*11 塑性と加工 vol.40 1999 No.458 中山登史男
*12 潤滑経済 1992.8 引抜き加工における潤滑技術 東京都立工業技術センター 片岡征二

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Q1

冷間圧延油にはどのような性能が求められ,そのために一般的にどのような添加剤が用いられていますか。また,その効果や今後の動向についても教えて下さい。

Q2

冷間圧延油の使用方法や管理技術について教えて下さい。

Q3

最近の冷間圧延油の動向について教えて下さい。

Q1 冷間圧延油にはどのような性能が求められ,そのために一般的にどのような添加剤が用いられていますか。また,その効果や今後の動向についても教えて下さい。

A1

冷 間圧延は塑性加工の1つであり,潤滑領域としては混合潤滑領域~境界潤滑領域が主体となっています。この領域において,潤滑 性を向上させるため,すなわち板とロール間に発生する摩擦を低減するために用いられる効果的な添加剤は「油性剤」です。冷間圧延に用いられている代表的な 油性剤にはエステル類,脂肪酸,アルコール類といったものがあり,冷間圧延油はこれらの添加剤を単独,もしくは数種類組み合わせて,圧延材料や圧延条件に 応じて調整されます。

このように,圧延潤滑における主たる目的は「油性剤」の適用による潤滑性向上,すなわち板/ロール間の摩擦力低減,表面品質の向上等ですが,圧延潤滑におけるもう一つの大きな目的に冷却性の向上があります。(図1

圧延潤滑の目的
図1 圧延潤滑の目的

冷 却性は油タイプの場合,低粘度品ほど有利ですが,圧延材料によっては水溶性が主として使用されます。水溶性を主として用いる 材料としては普通鋼や銅の粗圧延,チタンといったものが挙げられますが,これらはいずれも高速圧延や圧延率の増加に伴う発熱量の増大や変形抵抗の大きな材 料を圧延することによって,水溶性を用いた方が冷却性の面から有利であるためです。この水溶性圧延油の性能を大きく左右する重要な添加剤には上記の油性剤 とともに「乳化剤」があります。乳化剤のタイプやその組み合わせによって水溶性の冷間圧延油の性能が決まると言っても過言ではありません。乳化剤には大き く分けてアニオン系,カチオン系,ノニオン系がありますが,最近では作業環境の改善(機械周りの汚れ低減)や圧延油原単位低減,平均粒径の安定等といった 目的から油剤の乳化力を強くするタイプのものが多くの実績を有するようになってきており,また圧延油の寿命延長を目的に油中の摩耗粉を原単位も考慮しなが ら,スカムとして浮上させて除去する圧延油も,アニオン系,カチオン系,ノニオン系乳化剤を様々に組み合わせたものとして開発されています。

また,油性剤や乳化剤以外にも冷間圧延油には圧延材料に応じて防錆剤や金属不活性化剤,ミスト防止剤,酸化防止剤等が用いられています。(表1

表1 圧延材料別の冷間圧延油のタイプとその使用添加剤
圧延材料 普通鋼 ステンレス アルミ
主たる圧延油のタイプ 水溶性 油(ニート)
一部水溶性
粗圧延:水溶性
仕上げ圧延:油(ニート)
油(ニート)
用いられる添加剤 油性剤(エステル類,脂肪酸,アルコール類),防錆剤,金属不活性化剤,ミスト防止剤,酸化防止剤,乳化剤(アニオン系,カチオン系,ノニオン系) 他

防 錆剤や金属不活性化剤は圧延後の材料の防錆,防食を目的に添加されます。また冷間圧延油は補給のみで長期間継続使用されるこ とから油剤の酸化劣化を防止するために様々な酸化防止剤が添加されています。圧延材料ごとに使用される冷間圧延油のタイプと添加剤についてまとめると表1のようになります。

次に,油タイプの冷間圧延油において圧延材料ごとに主たる使用添加剤とその添加目的について説明します。

(1)ステンレス

ス テンレスは圧延後の板表面品質,特に表面光沢の仕上がり状態が非常に重要な材料です。それに大きく影響する現象はロールコー ティングの生成状態です。圧延後の板表面光沢を均一でかつ高光沢にするためには圧延条件によらず,ロールコーティングを積極的に生成させる必要があり,圧 延潤滑の面からは板とロール間の油膜を薄くすること,すなわち潤滑条件を厳しくすることがポイントとなります。しかし,油膜が薄くなるとステンレス圧延の 場合,板とロール間における油膜が部分的に破断することによって微小な焼付きが生じやすくなり,ヒートスクラッチと呼ばれる油膜切れに伴う板表面損傷が発 生することがあります。したがって,潤滑状態が厳しい条件になっても強固な油膜を保持できる添加剤の選択が重要になってきます。これに用いられる添加剤が エステル類です。冷間圧延に用いられるエステル類には,モノエステル,ジエステル,トリエステルといったものがあり,ステンレス冷間圧延油はこれらが単独 もしくは数種類組み合わせて添加されています。日本国内で市販されているステンレス圧延油はこれらエステル類が大量に添加されているものが多く,圧延機の 高速化や高圧下に対応されており,圧延操業の安定化や表面品質の向上に大きく貢献しています。

(2)アルミ

ア ルミの冷間圧延は従来より,ベースオイルを石油メーカーが供給し,添加剤は各圧延メーカーが独自に選択し,圧延機ごとに添加 しているのが現状です。添加剤としては油性剤が主であり,アルコール類を中心とした添加剤が添加されます。アルコールとしてはラウリルアルコールが多く使 用されています。これは現場での添加が比較的容易であることから選択されており,これ以上の炭素数を持つアルコールは常温で固体であることから,現場では 扱いにくく,あまり使用されないのが実状です。添加量は各圧延メーカーによって異なりますが,一般的には板(条)圧延メーカーで5~10%程度,箔圧延 メーカーで1~5%程度です。この添加目的は潤滑不良に伴うへリングボーンと呼ばれるアルミによく見られる表面損傷の防止です。この現象もステンレスの ヒートスクラッチと同様に,板とロール間での油膜不足に伴う凝着現象です。アルコールの添加は板とロール間での凝着を防止し,安定した圧延を可能としま す。ただし,アルミ箔の仕上げ圧延に限ってはこれとは全く逆に油膜が厚い状態,すなわち潤滑過多でもヘリングボーンが発生することがよく見受けられます。 このため,アルミ箔仕上げ圧延では潤滑過多となりやすい冬季において,夏季に比べてアルコール添加量を減らす等といった方法が実施されることもあります。 したがって,へリングボーンが発生した時には板表面を十二分に観察し,どういう原因でヘリングボーンが発生したのかについて板表面状態から確認のうえ,圧 延油添加剤仕様を考慮する必要があります。

また,アルコールのみでなく,アルミ冷間圧延ではエステル類を添加するこ ともありますが,このエステル類はフィン材のような低 温焼鈍を行う場合,その種類や添加量によっては焼鈍性を低下させることもあり,焼鈍条件を考慮したエステル類の選択が重要となります。エステルを添加する と従来ではヘリングボーンの発生した領域でも問題なく圧延が可能となることを最近,実機で数多くの圧延メーカーが確認済みであり,焼鈍性に問題ない範囲で アルコールにエステルを添加する方法が実機における添加剤仕様として望ましいといえます。また,アルミ箔圧延では脂肪酸を添加することもありますが,これ は圧延油による静電気火災を防止することが目的です。

(3)銅

銅の冷間圧延において現場でよ く見られる問題点は,圧延方向と直角方向に発生するリダクションマークと呼ばれる段付模様の表面 損傷の発生と圧延後の板表面の変色問題です。特にリダクションマークは銅でもリン青銅のような比較的変形抵抗の大きい銅合金に主として発生しやすい傾向が あります。圧延条件では特に,低速,強圧下の状態で発生することから,この防止には潤滑状態が厳しい条件でも油膜の保持が可能なエステル類の添加が効果的 です。また,圧延油の粘度は高い方が有利となります。

一方,圧延後の板表面の変色防止に対しては様々な金属不活性化 剤が用いられ,特に高速,高圧下の圧延機や夏期のような板温が高 くなりやすい条件下で酸化銅となって変色することに対応しています。また,金属不活性化剤はロールコーティングの生成も抑制することから,銅の種類によっ ては板表面品質の向上も期待できます。表2に圧延材料ごとの問題点と圧延油からの対応をまとめます。s

表2 圧延材料ごとの問題点と圧延油からの対応
圧延材料 ステンレス アルミ
問題点 ヒートスクラッチの発生
光沢不均一(光沢ムラ)
へリングボーンの発生 リダクションマーク発生
圧延後の板変色
圧延油からの対応 エステル類の大量添加 (凝着型の場合)
アルコール類の添加,増量
エステル類の添加
エステル類の添加
粘度アップ
金属不活性化剤の添加

Q2 冷間圧延油の使用方法や管理技術について教えて下さい。

A2

ここでも前項と同様,油タイプの冷間圧延油に限定して説明します。

(1)ステンレス

ス テンレスは前述のように板表面の光沢(高光沢と均一性)がその製品価値を決定するために圧延油もその表面品質を維持するため の管理法が重要となってきます。ステンレス圧延油に限らず,圧延油は使用に伴って軽質留分の蒸発や操作油圧作動油,軸受油等のコンタミによって粘度が上昇 していく傾向にあり,特にステンレス圧延油はこのまま使用していくと,表面光沢に悪影響を与えやすくなります。すなわち粘度の上昇に伴い,オイルピットが 多くなる,またはロールコーティングが生成しづらくなるといった問題点が発生し,表面光沢が低下したり,光沢ムラが発生しやすくなります。したがって,こ の対策としては新油における添加剤組成を変更せず,新油の軽質留分のみを選択的に取り出した特別の基油を用いた圧延油を補給で継続使用していく方法が実施 されています。この方法によって新油と同等レベルの圧延油性状で長期間光沢の維持が可能となります。また,使用に伴う添加剤の消耗の場合はコンセントとし て別途必要量を添加することもあります。

(2)アルミ

アルミの冷間圧延の場合は圧延油清浄度の 維持や板表面品質の向上の目的でシュナイダフィルタというフィルタが用いられている関 係上,そこで使用される白土やけい素土によって添加剤が常時除去されてしまうという現状があります。特に吸着効果が高く,一般的に広く使用されているアル コール類が最も除去されやすい傾向にあります。アルコールについては,各圧延機ごとに現場経験に基づいて圧延メーカーが適宜補給を行い,必要濃度の維持管 理を実施しています。

最近は,従来のアロマ含有タイプの基油から ノンアロマタイプへの油種変更が検討されていますが,基油変更に伴い,一部材料にお いて発生した圧延性の低下問題をエステル類やエーテル類,αオレフィンといった添加剤を従来のアルコール主体の添加剤仕様に加えることがすべての圧延メー カーで検討されています。この中でもαオレフィンは10%以上の添加によって従来のアロマ基油でも不可能だった圧延条件でもヘリングボーンが発生せず,パ スカットを可能とします。また1%程度の添加でも潤滑不足が原因であるチャタリングや圧延機の振動等も防止可能です。

(3)銅

銅 の冷間圧延油は最近の薄物化に対応して低粘度化の傾向にあります。そのため,ステンレス圧延油同様,粘度の維持が重要です。 したがって,新油と同等の添加剤組成で粘度のさらに低い圧延油を補給で使用することが重要な管理法の1つとなります。また,金属不活性化剤は新油添加のみ ならず,板表面状態を確認しながら適宜添加するケースもあります。

Q3 最近の冷間圧延油の動向について教えて下さい。

A3

最 近の冷間圧延油も他の金属加工油剤と同様,環境に配慮した基油や添加剤が使用されるようになってきました。特に基油について はPCA対応品やノンアロマタイプがすでに市場に供給されはじめています。また,圧延メーカーからの表面品質の向上や材料の薄物化に対応して既存添加剤の 増量,新油性剤の組み合わせ,低粘度化といった内容組成を持った圧延油が検討されています。冷間圧延油はコイル製品の最終品質を決定するものであり,今後 も圧延メーカーの様々なニーズに対応した圧延油の開発を適宜行っていきます。

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Q1

熱間圧延油にはどのような性能が求められ,そのために一般的にどのような添加剤が用いられますか。また,その効果や今後の動向についても教えて下さい。

Q2

熱間圧延油の使用方法や管理技術について教えて下さい。

Q3

最近の熱間圧延油の動向について教えて下さい。

Q1 熱間圧延油にはどのような性能が求められ,そのために一般的にどのような添加剤が用いられますか。また,その効果や今後の動向についても教えて下さい。

A1

1.熱間圧延油に求められる性能

熱間圧延油に求められる性能として,特に鋼に関しては下記の6点が考えられます。

(1)ロールへの付着性・吸着性が優れること
  熱間圧延の場合,通常,ウォーターインジェクション法(塗布直前に熱間圧延油とキャリアー水をオリフィスで強制分散させロールに塗布)にてロールに付着 させます。多量の冷却水がかかっており,水切り装置や塗布装置の工夫で付着効率を上げていますが,油剤へも高付着性・吸着性が要求されます。

(2)熱安定性に優れ高温油膜保持性が良好なこと
 上記の方法でロールに塗布→付着させた油膜が高温の被圧延材とロールバイト内で接触し,接触時間が短時間とはいえ,十分な作用効果を示すためには熱安定性に優れることが要求されます。

(3)付着油膜が高熱間潤滑性を有すること
  付着油膜が高潤滑性を有し,熱間圧延時の摩擦係数を下げることにより圧延荷重低減,消費電力低減を達成でき,極薄材・極低炭素鋼等の高圧下圧延や高R値 鋼板用高潤滑圧延も可能となります。また,ロール表面温度は材料からの熱伝達と加工熱と摩擦熱が影響しますが,摩擦熱低減によりロール温度上昇も抑制で き,ロール耐久性向上につながります。

(4)ロールの耐肌荒れ性に優れること
 熱間粗圧延および仕上圧延 前段では高温・高圧下および低速度のため,ロールは熱的損傷や黒皮生成→脱落・剥離を引き起こしバンディング等の肌荒れが生じ やすくなります。この黒皮は高温硬度が高く,熱間圧延では黒皮生成条件下にあるため,従来のアダマイトやハイクロムロールは積極的に生成させ,安定化させ ることで耐肌荒れ性を良好にさせていました。現在主流のハイスロールは,それ自体高温硬度が高く耐肌荒れ性良好で,黒皮の効果よりも黒皮剥離による肌荒れ を抑制するために黒皮生成抑制が必要とも言われています。この肌荒れは製品のスケール疵にもつながるため,ロール交換を余儀なくされます。ロール材質によ り対応も異なりますがロール原単位向上・圧延単位拡大のためにも,また,製品表面品質向上のためにも熱間圧延油によるロール肌荒れ抑制が要求されます。

(5)耐ロール摩耗性に優れること
 熱間仕上圧延後段では黒皮生成も少なく,製品形状・表面品質への影響のため,摩耗管理が厳しく,特にニッケルグレンロールの原単位向上,圧延単位拡大に は耐ロール摩耗性向上が必要と考えます。熱間圧延油の潤滑効果による耐ロール摩耗性が要求されます。

(6)SUS鋼等圧延時の耐焼付き性に優れること
 SUS 鋼は普通鋼に比べ酸化スケール生成が少なく,ロールと被圧延材が金属接触しやすく,特に粗圧延および仕上圧延前段で焼付きやすいものです。この焼 付きはロールの肌荒れ・不均一摩耗を増大させ,製品疵を引き起こすため,焼付き防止が必要です。表面品質が重要なSUS鋼は当然ですが,普通鋼でも薄物高 圧下圧延では焼付き防止が要求されます。

2.熱間圧延に使用される添加剤

熱間圧延に使用している添加剤の種類および効用の概略は表1の通りです。各要求性能と各種添加剤の特性・効果を個々に示します。

表1 熱間圧延油に使用している添加剤の種類,構造および効用の概略
物 質 構造,物質例,吸着形態等 効 用
鉱油 鎖状・環状飽和炭化水素,鎖状不飽和炭化水素,芳香族炭化水素等で物理吸着が主。 各種添加剤成分の溶解剤。粘度調整にも利用。
油脂 主にグリセリンと脂肪酸のトリエステル。分解して遊離脂肪酸を生成。物理吸着が主で良好。 吸着性良好,耐熱分解性良好。熱間潤滑性良好。
合成エステル 種々の脂肪酸とアルコールの反応物。モノ・ジ・トリおよびヒンダードエステル等がある。 吸着性良好,耐熱分解性良好。熱間潤滑性良好。
ワックス 天然ワックス(木蝋,カルナバetc),石油ワックス(パラフィン,マイクロワックス),合成ワックス(ポリエチレン,プロピレンワックス) 耐熱分解性良好,付着向上で熱間潤滑性良好。
石油酸化物 鉱油,ワックス等を酸化反応して酸素含有吸着基を導入。
官能基(-COOH,-COOR,-CHO,-OH etc)
吸着性向上,耐熱分解性良好で熱間潤滑性良好。
ポリマー ポリブテン,ポリアクリル酸エステル,ポリマレイン化アルキルエステル,酸化ポリエチレン 増粘,付着向上,油膜保持向上効果。
脂肪酸

一~多塩基酸があり,官能基(-COOH)を1コ以上持つ。化学吸着で金属石鹸の生成あり。

吸着性向上,耐熱分解性良好で熱間潤滑性良好。
極圧剤 P:リン酸エステル,P-C結合化合物,S:硫化エステル,ポリサルファイド,Cl:塩素化パラフィン,塩素化油脂 鉄と反応物を生成し,潤滑膜が耐焼付き性を示す。
油溶性Ca化合物 超微粒子Ca化合物(塩基性オレイン酸Ca)
Caスルホネート,フェネート,サリシレート
油膜高潤滑性,耐焼付き効果,黒皮抑制効果あり。
油溶性ホウ素化合物 ホウ酸と種々のアルコールとのエステル B2O3が高温液状潤滑・黒皮抑制効果を示す。
有機金属塩 ジンクジチオフォスフェート
有機モリブデン
油膜高潤滑性と固体潤滑剤の耐焼付き効果を持つ。
固体潤滑剤 層状結晶格子化合物,物理吸着。黒鉛,BN,CF,MoS2,雲母,チタン酸カリウム等。 耐焼付き効果あり。粒子大のため,自動給油が困難。

(1)ロールへの付着性
 図1および図2に示すように,ポリマーの添加が最も付着性向上効果を示します。

粘度と付着量の関係
図1 粘度と付着量の関係
(ウォーターインジェクション法)
ESIと付着量の関係
図2 ESIと付着量の関係
(ウォーターインジェクション法)

高粘度鉱油等による粘度調整,また,抗乳化剤(乳化分散を悪くさせる添加剤)の適用等によるミキシング液の乳化分散性(ESI)の調整により高付着性が得られます。図1および図2のように粘度が高く,あるいは乳化分散性が悪い(ESIが低い)方が付着量大を示します。

(2)熱安定性に優れ高温油膜保持性良好なこと
 表1に示すように,油脂・合成エステル・ワックス・石油酸化物や脂肪酸が熱安定性良好でロールバイト内で油膜として有効に作用します。また,固体潤滑剤および油溶性Ca化合物・油溶性ホウ素化合物はさらに高温でも残存して耐焼付き性向上効果を示します。

(3)付着油膜が高熱間潤滑性を有すること

(2) で示した熱安定性良好な有機系添加剤が低摩擦係数を示します。その中でダイマー酸や高粘度エステルがより高い効果を示 し,さらにP-C結合化合物や硫化エステルも低摩擦係数を示し,油溶性Ca化合物の中の塩基性オレイン酸Ca(超微粒子Ca化合物)が良好な熱間潤滑性を 示します。図3に弊社の熱間チムケン試験機の概略図・条件を示し,表2に測定した摩擦係数の結果を示します。

熱間チムケン試験機の測定条件と概略図
図3 熱間チムケン試験機の測定条件と概略図
表2 各添加剤の摩擦係数(熱間チムケン)

摩擦係数
鉱油(40mm2・s-1/40℃) 0.314
鉱油(150mm2・s-1/40℃) 0.219
ナタネ油 0.140
オレイン酸 0.126
ダイマー酸 0.100
高粘度エステル 0.106
P-C結合化合物 0.110
硫化エステル 0.106
塩基性オレイン酸Ca 0.100
Caスルホネート 0.161
油溶性ホウ酸エステル 0.252

(4)ロールの耐肌荒れ性に優れること
  第一に(3)の熱間潤滑効果を有する添加剤が挙げられます。これは潤滑効果により摩擦発熱が低下しロール表面温度上昇抑制とロール負荷軽減のため,局部 摩耗や熱亀裂やバンディング等のロール肌荒れを抑制するものと考えます。第二に黒皮制御効果を有する塩基性オレイン酸CaおよびCaスルホネート等の油溶 性Ca化合物や油溶性ホウ素化合物が挙げられます。熱間圧延(特に粗・仕上前段)では黒皮が生成する条件下にあり,従来のアダマイト・ハイクロムロールで は黒皮の安定化と剥離抑制のため,潤滑効果が主と考えていますが,現在多く適用されているハイスロールは黒皮生成→剥離抑制が耐肌荒れ性向上につながると 考えています。

(5) 耐ロール摩耗性に優れること
 いずれの熱間圧延にも共通しますが,(3)の熱間潤滑効果を有する添加剤がロール摩耗量を低減します。

(6)SUS鋼等圧延時の耐焼付き性に優れること
 表1に 示す固体潤滑剤そのものと固体潤滑剤的要素を持つ油溶性Ca化合物や有機金属塩が挙げられます。また,リン系極圧剤や硫化エステル等の硫化油も効果を示し ます。ただし,固体潤滑剤は粉体のまま適用するか,水あるいは油ベースに分散させて適用せねばならず特殊な塗布装置が必要となります。油溶性Ca化合物・ 有機金属塩・リン系極圧剤や硫化油は安定油状型としてウォーターインジェクション法での適用が可能であります。

3.今後の動向について

鋼 板熱間圧延ではハイスロールが定着し,粗圧延にも適用化され始め,単位圧延量の増大,高圧下・高品質材圧延がなされ熱間圧延 油もそれに対応した性能が今まで以上に要求されます。ハイスロールの特性を助長するためにも黒皮制御(例えば粗圧延の黒皮によるスリップ防止や仕上前段肌 荒れ抑制)も必要と考えます。連続圧延やオフゲージロス縮小,生産性向上のためにも全長塗布が可能で高潤滑性が要求されると考えています。形鋼・管圧延の SUS材やデスケーリング材等の表面疵防止を目的として耐焼付き性の優れた熱間圧延油が求められ,また,広くロール原単位向上・製品品質向上のため,ビ レットから粗・仕上圧延・サイザーおよびレデューサ等にも目的に対応して適用され,また,検討されています。

Q2 熱間圧延油の使用方法や管理技術について教えて下さい。

A2

4.使用方法について

一般的にはウォーターインジェクション法にてロールに塗布して使用します。図4に給油・塗布装置概略図を記します。

ウォーターインジェクション塗布装置概略図
図4 ウォーターインジェクション塗布装置概略図(鋼板圧延塗布例)

この装置はノズル・ヘッダー部のみ工夫すれば鋼板・形鋼および管圧延のいずれにも適用できます。各部の必要事項は以下の通りです。

(1)給油ポンプは高圧精密ギヤー・トロコイドポンプ等を用い,インバータ回転数制御により給油量を調整します。
 (2)3方電磁弁にて常時熱間圧延油配管内を循環すること。⇒配管内滞留防止
 (3)油タンク~オリフィスまでを保温すること。⇒粘度を定常保持・安定給油
 (4)低硬度・蒸発残差の少ない水を使用すること。⇒ノズル詰まり防止
 (5)油および使用水配管に40~80メッシュのツイン型ストレーナを設置し,ゴミや異物を各々の配管内に入らないように未然に除去すること。 ⇒ノズル詰まり防止
 (6)オリフィス~ノズルまでの距離はできるだけ短くし,詰まり防止のため,蒸気洗浄配管を設置し常時は使用水を流すようにすること。 ⇒安定塗布
 (7)ノズルは低圧用フラットまたはフルコーン型の適する番丁を使用し,最適部位に向けること。⇒塗布・付着効率向上

また,塗布方法(位置)と条件としては,

① 鋼板の場合,ワークロールおよびバックアップロールの両方または一方のセンター部(必要に応じてエッジ部も)にフラットノズ ルにて幅方向一様に塗布すること。給油量は100~500mL/min/スタンド(濃度0.2~0.8%)で,SUS鋼等には必要に応じて給油量を上げる こと。

②形鋼・管の場合,焼付きや負荷がかかる部位が局所に偏る場合が多く,また,負荷大のため,高濃度(1~20%)のインジェクション液をフラットまたはフルコーン型ノズルにて必要部所に有効に塗布すること。

③熱間圧延では多量の冷却水をロールにかけていますが,インジェクション液塗布部の水切りを十分行い,付着効率を上げるようにすること。

④熱間圧延の場合,カミ込み時のスリップの問題がありますが,圧延中のみの給油塗布ON-OFFでコントロールすることが必要です。

以上に留意して塗布することが大切です。

5.管理技術について

ま ず,被圧延材の材質・形状やロール材質圧延条件等により適用熱間圧延油の要求性能が異なるため,また,操業性やコスト,廃水 処理性等も考慮して最適油剤を選定することが重要です。その油剤を前記の設備・使用方法にて適用し,日常の管理と定期的な設備点検を行うことが大切である と考えます。
 日常管理としては設定給油量・濃度が正常に出ているかをノズルまたはその手前で確認し,ロールの必要個所に付着しているかを確認す ることです。また,定 期修理時等にはノズル詰まりやフィルタ汚れ,計器類の正常作動を確認し,異常があればただちに処置することです。必要に応じて配管は蒸気洗浄し,常に目詰 まりのない状態で使用することが大切です。

Q3 最近の熱間圧延油の動向について教えて下さい。

A3

鋼 板熱間圧延ではハイスロールが定着・拡大し,それに対応した油剤が使用され,また,高R値鋼板圧延や鋼板・形鋼・管のSUS 材圧延のように油剤への要求がますます高度になり,高コストではありますが性能重視のため,添加剤そのものをベースにした油剤も使用されています。他方で は油剤の低コスト化の要求も高くなり用途に応じて使い分けをしています。また,排水処理・燃焼ガス等の環境汚染の問題もISO対応でますます厳しくなり, 環境汚染に影響しない添加剤を使用した熱間圧延油が前提条件となって来ていると考えます。

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